「積ん読」という言葉をご存知だろうか? 『大辞林』には「書物を買い集めるだけで、読まずに積み重ねておくこと」とある。「積んでおく」を「読書」にひっかけた言葉で、実は明治時代から存在するものだ。わが身を振り返れば、たしかに「積ん読」している本があるなと、誰しも思い当たる節があるのではなかろうか。
そんな「積ん読」をテーマとしたインタビュー集『積ん読の本』(主婦と生活社)が、本好きたちのあいだで話題を呼んでいる。
10月1日に発売され、その翌日には重版がかかったほどの売れ行きだというから驚きだ。角田光代、柳下毅一郎、柴崎友香、山本貴光などなど、積ん読名人12人の積ん読の山を写真で眺めつつ、それぞれが語る「積ん読論」に触れることで、積ん読とはなにか、本を読むというのはどういうことなのかを考える1冊となっている。
その刊行を記念して、10月6日にジュンク堂池袋本店で、本書にもご登場いただいた英文学者の小川公代さんと、著者・石井千湖さんとのトークショーが開催された。その一部をご紹介する。
読書は「旅」に似ている
石井 『積ん読の本』、いかがでしたか?
小川 おもしろかったです! よくこれだけのメンバーを集められたなという驚きと、しっかり読んで初めてわかる奥深さがある本ですよね。 写真だけ見ても楽しいですし、こんな本があるんだとか、こんなふうに本を並べるんだみたいな、そういう発見の楽しみもあるんですけど、実際、石井さんが1人1人にインタビューをされてすくい取ってこられた、積ん読とか読書の技法みたいなとか、なにを大切にされているかとか、そういうところを読んでいくと、ものすごくつながってくるものがありますよね。この本にも登場する管啓次郎さんの本棚も素晴らしかったんですけど、管さんには『本は読めないものだから心配するな』(ちくま文庫)という本がありますよね。
石井 とても印象的な本です。畏れ多くも『積ん読の本』に通じるものがあると思って、今回取材をお願いしたんです。実は管さんの『本は読めないものだから心配するな』の解説を書いているのが柴崎友香さんで、しかも山本貴光さんのインタビュー中にもその本の話が出てきて、意識していたわけじゃないんですけど、その偶然のつながりがとてもおもしろかったですね。
小川 管さんには『斜線の旅』(インスクリプト)という本もあって、実は私、積ん読していて読んでいなかったんですよ(笑)。だけどこの『積ん読の本』をきっかけに今回読んでみまして、とてもおもしろかったんです。本を読むことで、積ん読が減るっていうことがあるんだなって。で、『斜線の旅』を読んだ後に、私はずっと積ん読を勘違いしてたなってことに気づいたんですよ。積ん読って、領土を拡大していくイメージじゃないですか。
石井 それはありますね。
小川 物質的にも知的にも、いろんなものを手に入れて、掌握しよう、支配しようとする植民地的なイメージというか。でも菅さんの『本は読めないものだから心配するな』を読んだ時に、積ん読は旅的だと思ったんですよね。
石井 ああ! わかります。