乳がんのおかげで命と向き合えた

 手術を受けるため、事前に調べた近隣の大学病院を紹介してもらい、10月に転院。女性医師を希望し、誠実な主治医と巡り合った。

「精密検査でMRIとPET―CTを受けた結果、しこりは2~5センチ大。乳房内転移の疑いがあるが、リンパ節転移はなく左乳がんステージ2Aと判明しました。乳房の外に転移がなくてよかった!と本当に安心しましたね」

乳がんの部位を迫田綾子さんがイラスト化したもの
乳がんの部位を迫田綾子さんがイラスト化したもの
【写真】迫田さん本人が描いた“手術直後の自分”

 標準治療に基づいて、乳頭と乳輪を残す乳房温存手術と放射線治療を経て、抗がん剤またはホルモン療法を行うと説明を受けた。

「主治医と話すうち、医師に任せきりにせず、自分も病気や治療について学んで意思決定する必要があると感じました。それから乳がんのガイドラインや国立がんセンターのサイトなどでいろいろ学びました」

 そして、がんの標準治療は“標準的な治療”ではなく、“日本における最善の治療”であること、日本は乳がんの治療研究が最も進んでいることなどを知り、安心して治療を受けようと思った。

「自分で学んだことで、きちんと納得した上で主治医が提案する治療に同意できたんです。おかげで前向きに治療を受けることができました」

 手術までの2か月間は、がんが悪化しないか心配だったが、主治医から“進行が遅いタイプだから大丈夫”と説明を受けて安心した。

「終活が必要だと思い、身の回りの整理を済ませてエンディングノートも書きました。再発転移があれば緩和ケアで穏やかに過ごしたい、人工栄養や点滴は受けないなど、最後までどう生きたいかを考えて書きました。乳がんが自分の命と向き合う機会をくれたんですね」

 また、長い看護師生活で、患者さんたちの落ち込んでも諦めずに歩み出す姿を間近で見て、人生と向き合う姿勢を学んだという。

「何が起きても自分の人生。患者さんたちのように覚悟を決めて逃げずに病と向き合う大切さを実感できました」