術後の痛みと腫れはセルフケアで楽に

 しこりを見つけてから、約3か月後の12月下旬に手術、無事に乳房温存に成功した。

「手術した日の夜、意識が戻って乳房が残っていることを確認したときはうれしかったですね。痛みもありましたが、傷も小さく、4泊5日でクリスマス当日に退院することができました」

 しかし、翌朝鏡で両胸の皮膚が赤、青、黄に変色しているのを見て慄いてしまう。

「胸の中にある塊のようなものも大きくなっている気がして、がんの取り残しが広がっているのでは……と妄想が広がりました。結局、病院に行くと乳房内に滲出液がたまっていることがわかり、年始に注射器で抜いてもらいました」

 その後もしばしば痛みや腫れに悩まされた迫田さんだったが、自分で試したセルフケアに癒されたという。

「濡れタオルを使って痛みのある部分を温めたり、冷やしたりする温罨法、冷罨法にはとても助けられました。リラックスしたいときは、アロマオイルを使った足浴。あとは軽い散歩もしました。最初は家の中、1か月後は外でも歩いて。身体の中の臓器や組織があるべきところに戻っていく感じがして、スッキリするんです。無理のない範囲でする、術後の散歩はおすすめですよ」

 2月から放射線治療、3月からは10年間の服薬のホルモン療法がスタート。以来、現在まで服薬を続けて再発転移なく元気に過ごしている。

「何より、がんに勝つ一番の秘訣は自分の“サポーター”をつくること。信頼する友人や乳がん経験者に話をしたら、思いもかけないサポートをしてくれて本当にありがたかったんです。自分の気持ちを率直に話せる相手がいるのはとても心強いこと。告知は勇気がいりますが、信頼できる相手に話すことはきっと力になってくれますから」

迫田さん直伝! セルフケアと病院選びのコツ

 温罨法は、患部に温かいタオルを当てて症状の改善を図るケア。迫田さんは、ヒタヒタに濡らしたタオルを耐熱ビニール袋に入れ、手で触れる程度に電子レンジで温めて使った。朝は温罨法を、夜は水で濡らしたタオルを当てて患部を冷やす冷罨法を使うと痛みが和らいだ。

 病院を選ぶ際は、一般に理解しやすいホームページの公開や乳腺外科の医師数、また希望する手術(迫田さんは内視鏡手術)の年間実績が多い病院を探した。

迫田綾子さん●看護師、日本赤十字広島看護大学元名誉教授、老年看護、看護技術:食事や口腔ケア専門。ひろしまナイチンゲール賞受賞。2022年、乳がんを体験。『70代の乳がんサバイバー記』(リーブル出版:著者名迫田あや子)を自費出版。高齢者の乳がん情報を発信している。


取材・文/井上真規子