介護で悩む人たちの支えに
動画では、おばあちゃんがデイサービスに行く前にズボンを何回もはき替えたり、気になることがあると夜中に何度でも起きてしまう様子なども紹介している。
「すると『うちもそう』『動画では見えないご苦労があるでしょう』などコメント欄が共感の場になります。『お嫁さんのように接したら、姑(しゅうとめ)の暴言が減った』という人もいて、印象に残っています」
中には「介護がつらい」「泣いてばかりいる」など切実な心情を吐露する人も。介護士や施設職員など介護のプロからも「参考になる」「そうしたいが、人手不足で心に余裕がない」などジレンマに悩む声も届く。また、ある認知症専門医からは、「動画の活用は介護を客観的に見る機会にもなり、認知症ケアの新しい展開だ」と評価を受け、コラボ動画が実現した。
このような反響から、夫妻は「徐々にチャンネルが持つ社会的な役割を意識するようになった」と話す。
「うちのチャンネルが介護に悩んでいる方のコミュニティーになればと思うようになりました。加えて、私たちが介護で工夫したことも参考になればと思い伝えています」
例えば、仕事や家事に集中したいときに、何度も同じ質問をくり返してくるおばあちゃんに対して、生成AIを使った対策を試みている。
「最近では音声会話をしてくれる生成AIもあって、おばあちゃんが話しかけると意図を酌み取ってちゃんと返答をしてくれるので、試行錯誤しながら使っています。家族の負担を減らす方法のひとつとして、参考になればと」
だんだん・えむさんは、おばあちゃんと同居して23年。嫁としては姑に対してどこか遠慮があったとか。ところが今、おばあちゃんをカメラで追ううちに、身近でよい関係になれたと感じるという。
「おばあちゃんの認知症の進行は比較的ゆっくりですが、確実に進んではいます。どこまで動画で届けるべきかは慎重に判断しないといけませんが、それでも何らかの形で、認知症ケアに関わる人に役立つことを探っていきたいと思っています」
だんだん・えむさん
2016年より義母の在宅介護を始める。2021年、YouTubeチャンネル「認知症ポジティブおばあちゃん」を開設し、認知症ケアのリアルな日常を発信。著書に『認知症ポジティブおばあちゃん~在宅介護のしあわせナビ~』(フォレスト出版)。
取材・文/志賀桂子