51歳で出合った、自身の当たり役は……
歌をはじめ、映画やドラマの世界で活躍してきた慎之介だが、当たり役として今も語り継がれているのが'03年に幕を開けた舞台『越路吹雪物語』だろう。
「デビューする前から“シャンソンの女王”と呼ばれたコーちゃん(越路吹雪)の大ファン。家出して、東京に出てきたばかりの'68年に見た『ロング・リサイタル』はすべてが洗練されていて素晴らしかった。それ以来、ずっと通い続けました」
慎之介にとって唯一のヒロインといえる越路さんに、日生劇場の楽屋で1度だけ、会ったことがある。
「あなたがピーターね。かわいい子ね。あなたにピッタリのお芝居があるわ。私も演じたのよ」
とすすめられたのが、後に慎之介も演じることになる『グッバイ・チャーリー』('97年)である。その芝居を見てくれたのか、越路さんのマネージャーを長年務め、作詞家としても活躍する岩谷時子さんから、舞台『越路吹雪物語』で主人公の越路役をやらないかと声がかかった。
「“できるのはあなただけ”そう言ってくださったものの、初めは恐れ多くてムリと思ったんです。“それなら、ほかの人を探すわ”と言われ、慌てて“演らせてください”と手を挙げました」
慎之介は過去の映像は一切見ずに、記憶の中の越路吹雪を頼りに役作りに励んだ。
「みなさんの心の中に、亡くなった後もコーちゃんは生きている。“全然違う”と言われ、ブーイングがきたらどうしよう。幕が上がる寸前まで怖くて仕方がありませんでした」
しかし終わってみると万雷の拍手に包まれ、客席から「コーちゃん」コールが巻き起こり、泣き出す人までいた。
そして「しぐさも歌い方もしゃべり方もうり二つ」といった高い評価も頂いた。
慎之介は越路さんが亡くなった56歳になる'08年まで、日生劇場で再演を続けた。
「岩谷さん役を演じた高畑淳子さんとは、会うたびに“朽ち果てるまでにもう1回やりたいね”と話しています」
今となってはこの伝説の舞台を見ていない世代も増えている。
再演を願っているのは、ファンだけではあるまい。