修繕積立金が3倍に。紛糾する住人説明会

 理事長として、あらゆる問題に直面していた竹中さんだが、最も身骨を砕いたのが、修繕費積立問題だ。

 一般的に、マンションは10年から15年に一度、大規模修繕が入る。そのため、住人たちは決まった金額を何年もかけて積み立てるのだが、竹中さんのマンションは積立金額が足りておらず、将来的に修繕ができないことが判明したのだ。

「これまでの理事会が代々、積立金の増額を先延ばしにしてきたのが原因です。マンションの財政を赤字にしないためには、現在の修繕積立金を3倍に値上げする必要があると計算が出て、めまいがしました」

 積立金の値上げを提案するため、竹中さんは住人を集めて、自ら説明することになった。3密を避けるため、なんと合計6回もの説明会を実施したという。

「ご高齢の方から、『老い先短いので、値上げはしないでほしい』と言われたときは、本当に心苦しかったです。ほかにも、2倍ではダメなのか、なぜ今まで段階的に値上げをしてこなかったのかなど、私が関わりのない、以前のことまで責められました」

 とはいえ、このままだと修繕工事ができず、住環境そのものが悪化してしまう。竹中さんの必死の説得もあって、なんとか修繕積立金の値上げは可決されることとなった。

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 なお、これほどの時間と労力をかけても、竹中さんにリターンはない。理事長は無報酬なのだ。

マンションによっては役員費が出るところもあるそうですが、それも年間数万円程度と聞きます。多くは、ボランティアで成り立っているんです」

 任期は1年。苦労の連続だったという竹中さんだが、それでもやっぱり、タワマンに住んでよかったと語る。

「ジムやキッズルームなど、共用施設があるのはやはり便利です。各階にAEDが配置されていますし、災害時の備蓄食料もある。長く住むうえで、そういった安心感は大切ですよね。そして何より、タワマンに入居するきっかけにもなった眺望。この景色は何物にも代えがたいです」

 苦労の末に眺める景色は、格別だということだろう。


取材・文/中村未来