76歳になった現在も、岩手県滝沢市にある介護老人保健施設「老健たきざわ」の施設長として、また内科医、麻酔科医としても活躍する川村隆枝さん。
医師としての豊富な経験と明るくおおらかな人柄は、現場に欠かせない存在としてスタッフにも、また入所者にも慕われている。日々笑顔で働く川村さんだが、ここ10年のうちに島根の実家に住む父と母、そして45年連れ添い介護中だった夫を亡くした。どのようにして悲しみや後悔の日々を乗り越えてきたのか、話を聞いた。
5年間介護した夫との突然の別れ

「亡くなる前夜に夫と電話でハワイ旅行の話をしていたんです。来年暖かくなったら行こうって。だからその後、夜中に入所していた介護施設から『亡くなった』と連絡がきたときは呆然としましたね」(川村さん、以下同)
夫、圭一さんを亡くしたのは7年前。圭一さんも医師であり、同じ職場で勤務するなかで意気投合し結婚。その後、夫の故郷である岩手県へ移り住んだ。子宝には恵まれなかったものの、その分いつも一緒の仲良し夫婦だったという。
「同業ということもあり、何でも話せるパートナーでした。ただ、夫が66歳の’13年に脳梗塞で左半身麻痺となり、要介護5での介護生活がいきなり始まりました。夫の希望で当初は自宅介護をしていましたが、膀胱炎や肺炎などを起こして入退院を繰り返し、最終的に介護施設に入所しました」
介護施設の手厚いサポート体制により生活リズムが整い、介護生活5年目を迎えて、ようやくお互いの体調や精神状態も安定してきた矢先の出来事だった。
「青天の霹靂でしたから、当時は介護施設に対して、“どうして異変に気づけなかったの?”と憤りを感じていました。でも今、介護施設の施設長をしているとわかるんです。夜間は人手が手薄になるから何かあっても気づきにくい。また、元気そうだった人が突然亡くなったり、反対に奇跡的な生還を果たされる人もいたり……。医学や人知の及ばない、命の不思議を感じる現場にも数多く出合ってきました」
命について改めて考えたとき、一人ひとりの寿命はその人が生まれながらに持った運命ではないかという考えに思い至った。すると、夫の死も運命として徐々に受け入れられるようになったという。