■産後クライシスは夫婦のあり方を気づかせてくれた
“産後クライシス”という言葉をご存じだろうか。出産や育児によって夫婦間に溝ができ、それまでのような良好な関係が築けず愛情が急激に冷え込み、最悪の場合は離婚に至ってしまうというものだ。
先日、タレントのスザンヌが離婚会見で「私が出産・育児にいっぱいいっぱいになってしまい、彼に対して思いやりを持つことができなかったのかもしれません」とコメントしたのは記憶に新しい。
「産後クライシスは、かつては“産後うつ”“育児ノイローゼ”という言葉で片づけられていました。それらの言葉は暗に母親に問題がある、と言っているようなもので、母親にとっては抵抗感も大きかった。でも産後クライシスという言葉が出てきて、当事者は母親だけではない、父親が一緒にやらないから大変なんだ、夫婦のあり方が重要なんだ、と気づかせてくれた。だから、反響も大きかったんじゃないでしょうか」
と語るのは、“イクメン”という言葉の生みの親で、自身も2児のパパである東レ経営研究所・研究部長の渥美由喜さん。
下の「女性の愛情曲線の変遷」の表を見てほしい。女性の夫への愛情は、結婚直後から出産直後にかけて急激に下降している。つまり、出産後数年間の過ごし方が夫婦生活の明暗を分けると、渥美さんは指摘する。
「グラフを見ると、出産直後から回復するグループと、そのまま低迷を続けるグループにはっきり分かれます。なぜ回復したか。それは夫が育児にちゃんと参加したからです」(渥美さん、以下同)
■出産後の数年間を夫はどう過ごしたか、女性は一生忘れない
先日、最終回を迎えたフジテレビ系ドラマ『残念な夫。』でも描かれたように、夫への愛情が急降下して、残念ぶりばかり目につくようになるのがこの時期。ここで残念から脱却できなかった低迷グループは夫婦の距離が広がり、一生低迷し続けることに……。
「低迷グループは回復グループに比べて、およそ20倍も熟年離婚率が高いというデータも出ています。出産後の数年間を夫はどう過ごしたか、女性は一生忘れませんから、男性は気をつけたいところです」
あるテレビ番組で、産後クライシスをテーマに放送した際、視聴者の女性から「40年前の育児期に夫から受けた屈辱が忘れられない。絶対に夫の老後の面倒なんてみない」という手紙も寄せられたという。1度傷ついた心は、何年たっても簡単に癒されるものではない。
「産後の数年間、夫が頑張ることで一生、良好な夫婦関係を維持できると考えれば、頑張らない理由はないと思います」
出産後の数年間に妻と二人三脚でサポートし合えた夫婦は、お互いに愛情を確認し合い、見つめ合って生きていけるのだ。
一方、低迷グループの妻が見つめる先には……。夫ではない異性がいるようだ。
「低迷グループの妻たちは不倫をしている人もいれば、韓流スターやジャニーズにハマっている方も多いです。夫のことはすでに財布としか見ていません。夫の遺伝子なんて残したくない、とまで言う女性もいるほど」
この結果に衝撃を受けた渥美さんは、勤務先で男性第一号の育休を取るなど、積極的に妻と家事・育児を共有している。
■少子化は女性の出産ストライキ
さらに、上の表の「残念と感じ始めた年数」のデータを見ると、夫を残念だと感じ始めた結婚年数は“1年目”が最多だとわかる。
「いまだ日本には男女の性差別や偏見が根づいています。男性は夫という立場になった瞬間から、自分が家事や育児をやらないことを正当化したいがために、過剰に母性をもてはやし、妻を追いつめているのです。現代の女性は、夫の世話に子どもの世話、仕事の三重苦。そりゃ“こんなはずじゃない”って思いますよね」
深刻化の一途をたどる少子化も、いかにも女性だけに原因があると思われがちだが、
「少子化を生み出すのは“残念な夫”だといっても過言ではありません。少子化は女性の出産ストライキといえます。結婚早々、夫の残念感からセックスレスに陥ったり、ひとり目出産後の夫が残念すぎて“ふたり目はいらない”という女性も多いのです」
待機児童問題や教育費の高さだけが、少子化の原因ではないのだ。
「2つの表を見れば、結婚生活がどれほど深刻な影響を及ぼすものなのか読み取れます。まずは最も小さな単位である夫婦それぞれの話に耳を傾けて、夫婦のあり方を変えていくこと。それが少子化対策の近道だと考えています」
夫への気持ちが報われなかった女性は、その愛情の矛先を息子に向けることも多い。知らず知らずのうちに、残念な夫づくりに積極的に参加してしまっている。
「息子に対して手取り足取り世話を焼きます。結局、ひどいマザコンの未来の“残念な夫”をつくり出していることにほかなりません」
これでは社会は変わりようがない。自分が受けて嫌な仕打ちを、子どもたちに残してはいけない。渥美さんも、これを負の連鎖だと言い切る。
「夫に対して残念だなと思う方は、子どもが男だろうが女だろうが、せめてこの偏見や価値観を次世代に引き継がないように気をつけてほしい。少子化も産後クライシスも残念な夫も、決して自分ひとりだけの問題ではないのです」
【この人に聞きました】
渥美由喜さん/東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部研究部長兼主席コンサルタント。2児の父で家事育児も楽しんでいる。