神奈川県川崎市の介護付き有料老人ホーム『Sアミーユ川崎幸町』で、昨年末から今年にかけて、入居者の転落死亡事件や職員による虐待が相次いで発覚した。
しかしホーム内の虐待事件にとどまらない。その他、全国の老人ホームで、不明朗な契約により、入居者が経済的に多大な損失を受けるケースが急増しているという。
制度の枠に収まらない『高齢者向け住まい』が、介護が必要な人の受け皿となっているという。今年2月、東京都北区の高齢者向けマンションで発覚した認知症高齢者への虐待事件はその典型といえる。
入居する認知症高齢者ら数十人を、提携する診療所の医師の指示でベッドに縛りつけていた。事件について、ある自治体の福祉担当職員は言う。
「表向きは高齢者向けマンション、つまり一般の賃貸住宅を謳いながら、その実は住宅提供側の法人とクリニックが提携して、訪問診療や介護サービスを丸抱えしていたわけです。有料老人ホームとしての実態がないぶん、行政の目が行き届きにくく、密室性が高まる中で虐待なども生じやすくなります。北区は東京23区でもっとも高齢化率が高いうえに住み替えが必要な古い住宅も多いので、同様のマンションは水面下で増えている可能性もあります」
仮に、その住居内で介護保険サービスとは別に食事や家事などの生活支援サービスが少しでも提供されている実態があれば、法的には有料老人ホームとなり行政への届け出が必要となる。
しかし、あえて届け出をしない、あるいは外部サービスを勝手につぎ込みつつ「ここはあくまで住居」と触れ込むケースについては、行政による実態把握は後手に回りがちだ。今回のような虐待が発生しても、内部告発などがなければ表に出ないままというおそれもある。
「例えば医療法人が設立した住居であれば、医療機関が密接にかかわっているのだから重い状態になっても安心という感覚がありますが、これは間違い。十分な倫理観のない医師の場合、“生活より療養優先”の考えから平気で身体拘束などを行うこともあります。どんなに著名な物件でも、“安心して何もかもお任せできることはない”という前提に立ち、契約書や重要事項説明書を精査していくことが欠かせません」(市民福祉情報オフィス・ハスカップ代表・小竹雅子さん)
そのほか、法人の経歴(不動産業でどう見ても高齢者介護には詳しくない)、財務状況(運営状況が厳しいと転売して責任所在をあいまいにするケース)などもチェックが必要。介護保険サービスについては、国の介護サービス情報のホームページで「外部の目となる第三者評価を受けているかどうか」を調べてもいい。
厚生労働省は有料老人ホーム向けの高齢者虐待再発防止策に、〈自治会やNPOなど地域に密着したメンバーで構成される『早期発見・見守りネットワーク』との連携強化〉を挙げた。
候補先の地域事情に詳しい自治会役員や住民団体と連絡をとり、市民の目から見た物件の評判などをキャッチすることも考えたい。
取材・文/田中元(介護福祉ジャーナリスト)