■炭水化物とタンパク質をきちんと食べる
さて、本書で繰り返し強調されているのが、ボケを防止するうえでの健康の大切さと、その健康を支える食の重要性です。
「食べることは生きること。食べないことには身体のもとを築くことができません。食べるとは、身体のなかで食べ物を分子レベルまで砕き、それをアミノ酸などの筋肉となるタンパク質に作り替えることです。これがよくできている人は、お薬など飲まなくても病気に対する抵抗力が強いんですね」
病気による寝たきりこそボケの最大の原因。そうならないために、もっとも心がけてほしいとのが、お米や麺類などの炭水化物(糖質)をしっかり食べることだと村上先生。
「糖質制限なんていうのに惑わされてはダメですよ。人間の身体はエネルギーで動いています。エネルギーをもっとも効率よく生み出すのは糖質なんです」
次に大切にしたいのは、意外にもタンパク質。
「野菜を食べようといいますけど、それはタンパク質をきちんと食べている人向けに言っているセリフ。炭水化物とタンパク質をきちんと食べたうえでの野菜(を食べよう)です」
最後に、野菜は丸ごと食べることだといいます。
「丸ごと食べるための最たるものが“たまねぎ氷”や“にんたまジャム”です。細胞膜をすりつぶすため、なかに入っているアンチエイジングのためのフィトケミカル類が丸ごと吸収できるのです」
■介護される方もできる限り一緒にキッチンに
本書でも強調されているこれら3つのポイントを意識しつつ、ときには介護者と要介護者が一緒にキッチンに立つことをすすめています。
「高度経済成長を境に、女性が料理をしなくなりました。でも、料理は脳のトレーニングになるとてもいい仕事なんです。
ですから、“片方は安楽椅子に座り、片方はキッチンに”でなくて、ときには一緒に作っていただきたいですね」
特別養護老人ホームに友人を見舞った母が、図らずも言った言葉を思い出します。
“ホームに入って上げ膳据え膳の生活をするようになったとたん、なぜだかあの人、ボケ始めた──”
料理とは、段取りを考え、栄養のバランスはもちろん、季節や盛りつけ、予算のやりくりもする作業。つまりは論理をつかさどる左脳をフル活動させ、感性の右脳をも刺激してくれる。
私たちは栄養がボケ防止の要であるということと同時に、料理の持つ、こうした脳トレ効果を見直すべきなのかもしれません。
■取材後記「著者の素顔」
「私がどれくらい生きるか見ていてください(笑い)! 私、炭水化物とお肉をよく食べるんですよ」。炭水化物と肉類の害についてお聞きして、帰ってきた答えがこれ。昨今の糖質制限や野菜至上主義にげんなりしていた肉食派としては、思わず「よくぞ言ってくださった!」。村上先生は、ご自宅も教室も実は九州。飛行機で週に何度も福岡-東京間を往復する、そのバイタリティーは、炭水化物とお肉にあるのかもしれません。
(取材・文/千羽ひとみ 撮影/齋藤周造)
〈著者プロフィール〉
むらかみ・さちこ●料理研究家、管理栄養士。母校の福岡女子大学で栄養指導実習講座を15年担当。治療食開発のなかで、電子レンジを活用すると1人分から手早く、油分控えめに作れることに着目。おいしい介護食の分野でも第一人者となる。最近では、たまねぎとにんにくの健康効果に着目して開発した“にんたまジャム”が話題に。