原発事故とお金で変貌するふるさと

 全町民へ町独自に避難指示が出された広野町は、'12年3月に避難指示が解除された。避難をせずに営業し続けた高野病院の事務長・高野己保さんは、職員の確保が厳しいなか、地域に必要とされたからこそ何とか経営を維持してきた。しかし、「(復興にかける)お金は人も地域も変えてしまった」と話す。

 9月8日、福島県知事は定例会見で双葉郡の二次救急を担う県立施設『ふたば医療センター(仮称)』を富岡町に新設すると発表した。'18年4月開院を目指し、総事業費は約24億円。

 ところが24億円かけて作られたあと、数年後に閉院するという話がある。福島県の病院局によると、これまで県が経営してきた大野病院(大熊町・帰還困難区域)の再開か、それに相当する病院の新設が決まった場合、『ふたば医療センター』がどうなるのか現時点で不明だという。

「私たちのような民間病院にも動きようがあるのに、そこにはお金は回らず、24億かけて作る病院をいずれつぶすかも、って。“民間病院は遅かれ早かれ、つぶれても仕方ない”と思っているのかな

 高野さんはそうため息をつく。患者と医療者の信頼関係など二の次。民間病院のこれまでの努力も切り捨て、地域医療を翻弄する復興とは何なのか─。

 広野町は'16年8月現在、2818人、55%の住民が帰還している。だが、住民票を移さずホテルや宿舎に住む除染・原発作業員は「3600人把握しているが、それより多いのでは」(広野町役場)。震災前の5490人より町内は、見た目には人口が増えている。

 警察庁の統計では福島県内の犯罪件数が増えたというデータはない。しかし、治安に不安を感じる住民が多いのも事実だ。

「後ろから抱きつかれたとか高校生が襲われたとか、話は聞きます。表に出るケースは少ないのでは」

 前出・高野さんは変質者が出る噂を聞き、職員に注意喚起している。実際に、勤めていた派遣職員が下着泥棒に遭ったこともある。

 原発事故に翻弄され続ける住民の「本当に望むもの」が復興政策からは見えない。この性急な復興は一体、誰のためなのだろうか。