作品では、故郷でふたたび取り戻す友情とともに、深山と母親の絆(きずな)についても描かれている。
「独特ですよね、あのふたりのシーン。いまでも、よく覚えています。(母親役の)佐々木すみ江さんとは、何度もご一緒させていただいていて、本当に敬愛している素敵な女優さんです。監督の思いも非常に大きかったんだと思うんですが、テストをしたときに“ここは、ワンカットでいきたいんです”とおっしゃって。7分くらいのシーンになると思うんですが、緊張感のある長回しになりました。
決して器用に振る舞う母親でもないし、息子も無骨にしか母に接することができないけれど、精いっぱいの言葉をお互いに投げかけたんだと思うんです。本番中、途中で監督がどこかへ行ってしまったんです。どうも、その場に居づらかったようで、モニターの前ではない違う場所から“OK”の大きな声がかかりました。フィクションなんだけれども、監督の体験を描いたドキュメンタリーのような。そういう体験をさせていただきました」
新たな一歩を踏み出した親子の姿が、心に強く残るシーンとなっている。大杉に、自身の両親について聞くと、
「僕の父は他界しましたけど、あまり父と会話らしい会話をした記憶がありません。高校の校長を長年やっていまして、酒と釣りが大好きな人でした。父は僕と違い、本当に寡黙(かもく)な人でした(笑)。それでも、僕の中にはしっかり父親の存在があります。
母親はいろいろなことを言ってくれましたね。母は、京都の出身です。僕は、映画やテレビの仕事をするようになるまで、ずっとアンダーグラウンドの芝居をやっていて、母は、東京にその舞台を見に来てくれました。そのときに、必ず僕のことをほめてくれるんですよ。たとえ、どんなに小さい役でも、“おまえが一番よかったわ”と必ず言ってくれる母親でした」
自分では「そんなによくないってわかっているんですよ!」と、少し声の調子に勢いをつけながら、
「そんなんウソやろ! って思うんだけど、子どもを励ますということをずっと貫いていましたね。ベタな話ですが、やっぱりうれしかった。劇団の諸先輩がいっぱいいらっしゃる中で “おまえが一番よかったわ”って、恥ずかしいじゃないですか。でも、そうやって、ずっと応援してくれる母でした。その母も他界しましたけど、最後の最後まで、僕の出ている舞台や映像を見てくれて、楽しみにしていてくれたところはありましたね」
いまは、家族が大杉の作品を見てくれている。
「最近でいうと『嘘の戦争』(フジテレビ系)とか『【ドラマ24】バイプレイヤーズ〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜』(テレビ東京系)というドラマに出演していますけど、身近な人が見てくれていて、いろいろ言ってくれるのはありがたいですね。身近な人の言葉は厳しいところがあるんですよ(笑)。ずっと、見ていてくれているから。ちゃんとうなずいてくれるような仕事ができれば、いいかなっていうのは、常々考えています。ひとつとして手を抜けるものはないし、ちゃんと向き合わないといけませんからね」