ソフトボールは人間力
沖縄を皮切りに、2017年1月の台湾、2月のオーストラリア、3月の鴨川と日本リーグのない冬季期間は毎月のように代表合宿を組んだが、沖縄合宿は1日3部練習。選手たちは約10時間をトレーニングに費やした。台湾合宿では野手がハードなフィジカル強化に挑む傍らで、投手陣はランニングやダッシュ、巨大なタイヤを全員で動かすという一種、独特なメニューを消化していて、全員が「世界一」を強く意識しているのがうかがえた。
結果を出すためには投げる・打つ・守る・走るといった技術面を磨き上げるのはもちろんのこと、人としての力を高めなければならない。とりわけ麗華監督は「人間力」を重視し、その必要性をミーティングでも口が酸っぱくなるほど選手たちに言い続けている。
「ソフトボールはひとりじゃできないしチーム全体で戦えない。そのために各自が謙虚になって努力することをすすんでやらないといけない。常に周りを見て、目配り、気配りしながら、何をすべきかを考えられる人間力の高い選手がそろわないと本当に勝てるチームにはならない。私も麗華にもそういう信念があります。今の選手たちを見ると、技術は高いけど、自ら行動を起こしたり、チームを引っ張ろうとする力が弱い。麗華はすべてにおいて自分からアクションを起こして学ぼうとする意欲があった。そういう力を選手につけさせるのは、簡単なことではないと思います」と妙子さんは選手を操る難しさを口にする。
中国出身の麗華監督は「自分には日本語力が足りないし、選手が納得する言葉をうまく言えないところがある」と認める。その弱点を克服するために、さまざまな本を読むなど日々、勉強を怠らない。
「星野仙一監督の本は大好きですし、野村克也監督、落合博満監督、イチローさんの本も読んで参考にしています。もちろん野球関連だけでなく、脳をうまく使う方法にも興味があります。人間の脳神経は12個あるといいますけど、その中でどれくらいの考え方を持てるのかを追求することで、選手たちに何かしらのヒントを与えられるかもしれない。
たくさんの引き出しを持つことが優れた指導者の絶対条件だと思います」と麗華監督は言う。
スタッフをうまく使うことも、効果的な指導に求められるポイント。麗華監督率いる今の日本代表には、アテネ五輪をともに戦った戦友で現在は太陽誘電の監督を務めている山路典子氏、2012・2014年世界選手権突破の盟友であるルーシー・カサレス氏らをコーチに招いている。山路氏は根っからの関西人でチームの明るい雰囲気を作ることに役立ってくれているし、ルーシー氏の存在によって宿敵・アメリカの情報収集が容易になる。とりわけ、アメリカ対策は重要だ。2016年世界選手権(カナダ)はアメリカに苦杯を喫して準優勝に終わっている。永遠のライバルに勝たない限り、東京での頂点はありえない。麗華監督も事あるごとに「(190cmの長身を誇る剛腕投手のモニカ・アボット(トヨタ自動車)をどう打つかを考えて。それができないなら金メダルなんて言わないほうがいい」と語気を強め、選手たちを叱咤(しった)激励している。
今度こそ世界の頂点へ
アメリカもアボット筆頭に進化を続けているだけに、日本も上野・山田らベテランのみならず、若い力を育てることが急務の課題。そこで指揮官が大きな期待を寄せているのが、2006年日本リーグMVPの藤田倭(倭=やまと/太陽誘電)。所属チームで「エースで4番」を背負っている26歳の大器はポスト上野の一番手と目されている。
「藤田はもともとわが道を行くタイプだったんです。その性格を知って“チームに何ができるのかを考えたほうがいい”“ソフトボールのためにもっとやれることがあるんじゃないの”と何度も話してますし、チームの監督である山路にも指導してもらってます。彼女は上野みたいにいつか日本のソフトボールを背負ってくれるかもしれない。上野と藤田という2本柱を東京までにしっかり作りたいですね」と指揮官は目を輝かせる。藤田以外にも、21歳の濱村ゆかり(ビックカメラ高崎)、17歳の勝股美咲(多治見西高校)といったポテンシャルの高い若手ピッチャーもいるだけに、彼女らが右肩上がりに成長していけば、日本の投手陣も安泰だろう。
そのうえで、山田以下、野手のレベルアップを図ることも不可欠のテーマだ。北京五輪の最終選考で落選という憂き目に遭っている河野美里(太陽誘電)も「32歳になってまた五輪という夢を思い描けるのは本当にすごいこと。自分も大舞台に立ちたい」と強い意気込みを語っていた。30代選手がそういう勢いなら、10代。20代の若い世代の心にも火がつくはず。そういうチーム内の自主性、競争意識の高さを麗華監督は強く求めている。
はたして3年後、彼女は自身が選手だったときにはつかめなかった五輪の頂点に立てるのか……大願成就へ。まずは7月のUSAカップ・カナダカップ、11月のアジア女子選手権という2017年の2つの国際トーナメントが新・宇津木ジャパンを待つ。
取材・文/元川悦子
もとかわえつこ 1967年、長野県松本市生まれ。サッカーを中心としたスポーツ取材を主に手がけており、ワールドカップは'94年アメリカ大会から'14年ブラジル大会まで6回連続で現地取材。著書に『黄金世代』(スキージャーナル社)、『僕らがサッカーボーイズだった頃1・2』(カンゼン)、『勝利の街に響け凱歌ー松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか。