目次
Page 1
ー 『喫茶アメリカン』の日本一のタマゴサンド
Page 2
ー 母から借りた2000万円で店探し
Page 3
ー こだわったのは1階の店舗
Page 4
ー やんちゃな跡取り息子としっかり者の妻 ー 小さいころは何をやっても三日坊主
Page 5
ー 他の男とも付き合ってた
Page 6
ー アメリカに憧れ、伝説の店を目指して
Page 7
ー 携帯もない時代に

「うわ!」「ヤバい、これ」「すご~い」「どうしよう!」

 目の前に置かれたサンドイッチに歓声が上がる。それもそのはず、皿の上のタマゴサンドは、分厚い食パンの上に具のタマゴサラダが山盛り。パンの間に挟まれた具の2倍ほどもあるタマゴサラダは、皿からこぼれ落ちそうなほどのボリュームだ。

『喫茶アメリカン』の日本一のタマゴサンド

東銀座『喫茶アメリカン』のタマゴサンド
東銀座『喫茶アメリカン』のタマゴサンド

 初めての客は、どうやって食べていいのかわからず、ひとしきり写真を撮ったのちにしばし皿の上の巨大サンドイッチと対峙する。いや、何回か来店したことのある客さえも「前よりタマゴ増えてない?」と困惑しながらも、なんだかうれしそうにしている。

 そんな幸福な光景が見られるのが東京・東銀座に店を構え、今年41周年を迎える『喫茶アメリカン』だ。誰が呼んだか“日本一のタマゴサンドを出す店”である。1日に使う卵は約600個、食パンおよそ240斤。恐ろしい量だ。平日は朝5時から仕込みを始める。それでも時間が足りず、店休日の日曜日も8時間近く仕込みを行う。

 1食分のタマゴサンドで、厚切り食パンは約1斤、卵は8個分程度を使っている。

「最初はこんなふうじゃなかったよ。パンも薄かったし、野菜の入った普通のタマゴサンドでさ。だけど“もう面倒くさいな”と思ってこうしちゃった。トマトとレタスだと水っぽくなるしね。卵って、昔はすごく原価が安かったじゃない。だからほかのメニューと同じ金額なのは悪いと思って、どんどん山盛りになっちゃってさ」

 笑いながら話すのは、マスターの原口誠さん。陽気な笑顔、口を開けば止まらない軽口。サービス精神旺盛な人柄は言わずもがなだ。厨房に立つ原口さんを見ていると、豪快にタマゴサラダをひとすくい、もうひとすくい、おまけにもうひとすくい……と、気前よくパンにのせていく。客席から手元まで見えることはないものの、その姿はまるでエンターテイナーのようだ。

「うん。子どものころからやっぱり目立ちたいとか、人を喜ばせたいとか驚かせたいとか、基本的にはそういう性格なのは変わらないかな」

 サービス精神に加え、こだわりも半端ではない。8時半と11時半からの2部制で営業する店には、開店前に2回パンの配達がある。焼きたてのパンを食べてほしいという思いゆえだ。特注の食パンは、赤羽橋にある『新橋ベーカリー三田店』から毎日届く。

「最近、高級食パンとかあるけどさ、本当においしいのは焼きたてだ。冷めたら高級だってうまくないだろ。やれ高級でございなんて言いながら、冷めて乾いたパン売ってたらしょうがないよな。ご飯だって炊きたてがうまいんだ。ホラ、持ってみな」

 そう言って渡されたのは、配達されたばかりの3斤分の食パン1本。その熱さと重たさ、しっとりを超えた、ムッチムチの触り心地に驚く。

「触れないくらい熱いだろ? 普通は焼きたてっていっても、棚で冷ましてから配達するんだよ。でもうちは特別。焼きたてをすぐ袋に入れて配達してもらってるの」

 言葉どおり、パンの袋が湯気で曇っている。ちぎった食パンを食べさせてもらうと、優しい甘さがふんわりと口中に広がる。そして想像をはるかに超えるもっちりとした食感が舌を喜ばせる。香ばしいパンの匂いに満たされた店内に入ろうと、目の前の通りにはすでに開店を待つ人の列ができている。平日のみの営業のため、有休を取って食べに来る人も稀ではない。