鎌倉の「ビブリア古書堂」の若くて美しい店主・篠川栞子と、本が読めない無骨な青年・五浦大輔が、古書にまつわる謎や秘密と古書に関する人間模様を解き明かしていく『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズ。累計600万部を突破する人気小説の最新刊は『ビブリア古書堂の事件手帖6~栞子さんと巡るさだめ~』。今作で、物語の起点のひとつとなるのは50年前に生じた太宰治の稀覯本をめぐる謎だ。
「以前から密室トリックを書いてみたいと思っていたので、今回、作品の中に取り入れることができてうれしかったです。密室と古書にからむトリックを思いついたのですが、実際にできるかどうかは頭の中で考えているだけではわからなかったんです。そこで、そのエピソードに登場する同じ古書の復刻版を購入して実際に実験しました。なんとかトリックが実行できそうだとわかったときには、ホッとしました」
著者の三上延さんはできる限り、事実に即した情報を盛り込んでいくことをモットーにこのシリーズを書き続けている。
「だから、どんなに面白いエピソードがある稀覯本でも、文学館の蔵書だったり、所持している人がわかっていたりなど、所在がはっきりしているものは取り上げることができないんです。物語に登場するのは、どこかにはあるものの在処が曖昧な本。そのほうが想像力を膨らませることができるんです」
シリーズ4作目の取材時に、三上さんは「古書はもちろん、人間関係もしっかりと描いていきたい」と語っていた。その言葉のとおり、今作では過去の人間関係が現在にまでつながっていることがわかるなど、古書の謎解きに加え、深い人間模様を味わうことができる。
「主人公たちの恋愛をはじめ、登場人物たちの物語も楽しんでもらいたいと思っています。今回は現在と50年前の2つのプロットを作っていて、特に前半の執筆には苦労しました。でも、流れにのって書いていくうちに、自分でも納得のいく人間関係を描くことができたと思っています」
多くの人に愛される本シリーズ。人気の秘密をご本人は次のように分析する。
「古書のことに詳しくない読者さんでも楽しめるエピソードを第一に考えて書いています。本には興味があるけれど、どの本がどんなふうに面白いのかがわからない。そんな方々に受け入れてもらえたことが大きいのではないかと思います。このシリーズをきっかけに“この本を読みました”という声をいただくことが多いのですが、とてもありがたいです」
物語も佳境にさしかかり次作も気になるところ。
「自分の中では、次がシリーズ最後のつもりです。今までは近代日本の古書だけを取り上げてきましたが、それ以外の稀覯本も視野に入れつつ、資料を読みあさっているところです」
■プロフィール
三上延(みかみ・えん) 1971年、神奈川県横浜市生まれ。10歳で藤沢市に転居。藤沢市の中古レコード店で2年、古書店で3年、アルバイト勤務。古書店での担当は、絶版ビデオ、映画パンフレット、絶版文庫、古書マンガなど。2002年、『ダーク・バイオレッツ』で作家デビュー。2011年刊行の『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズは累計600万部を突破。