論文は誰でも書ける。研究の世界にいざ!

 最近、文科省でも「文学部の廃止」とか、実用性のない学問への風当たりが強いですよね。

「文学部があるのがいい大学って僕は言ってるんですけど、無駄なものにお金をかけられるのが文化だと思うんです。個人単位で考えても、生活必需品以外の時計やベルトにお金をかけるとかってある意味、無駄じゃないですか。だけどそれは自分という価値を高める重要なアイテムじゃないですか。僕は研究もまさにそうだと思っていて、例えばベルトなんかもういらないんじゃないですか、ゴムでいいんじゃないですかみたいな感じになると、のっぺりした没個性的な物しかできあがらなくなる。いま“無駄”だと思えるものは、未来の自分に対する投資だと考えてみると、それは“無駄”ではなくなります。僕、お金がなかったときも本は買ったり研究書とかは読んだりしていましたが、それって未来の自分に対する投資だと思うんですよ。どんなにお金がなくてもそこは予算をつけてほしいっていうのは研究者みんなが思ってることなんじゃないかと思います。未来への投資なので」

 『もっとヘンな論文』を読んでいると、自分も変な論文を書けるかもと思い始める人もいそうですね。論文って、誰でも書けるんですか。

「全然可能です!(『もっとヘンな論文』に出てくる「坊っちゃん」が何時発の船に乗ったかを検証している)山田先生がそうですから。大学院も行ってないし、大学卒業のときに研究の手法を教わったぐらいで。一応、建前上は大卒の人はみんな教わってるはずなんですけど。中卒でも大丈夫です」

 主婦や一般のサラリーマンでも書けますか?

「書けます。そのかわり、先行研究っていって、有史以来、誰がそのジャンルでどういうことをしてきたのか、似た研究でどういうのがあるのかは知らなければならない。体系の中に自分を位置づけなければ論文としての価値はないので。それができなければエッセイになってしまいますから。でもそれはすぐにわかります。やろうと思えば。1回、お金を払って学会に所属して、学会を見てみるとすぐにつかめるでしょう、“みんなこうやってんだ”って。研究に限らず、趣味の世界でも、ずっと同じ職業をやってる人とかは意外としゃべらないだけで、すごい仕事と向き合ってるスペシャリストがいるので、何か本当に想像するきっかけにしてもらえたらいいですね。

 家で働いている主婦の方もですし、外で何かしてお金を得ている人たちって偉大なのですよ。ほかにない武器を持ってないと生き残れないから、みんな。そういう意味ではみなさん潜在的には研究者だと思うので、研究の手続きを知ってもらうと世界が広がるんじゃないかなあと思います」

『もっとヘンな論文』の巻末を飾る変な論文は、名作『坊っちゃん』を対象に、主人公の坊っちゃんが「東京から松山までどういう経路で行ったのか」を解明します。論文を執筆されたのは、船舶研究家の山田廸生先生。その桁はずれの情熱とスリリングな検証プロセスがすごい!

 数々の変な論文を、タツオさんはどこで見つけて来るのでしょうか。

「よく探すのは早稲田大学図書館の論文棚に配架されているもので、慣れてくると“におってくる”んです(笑)。研究者の先生も孤独なんでしょうね。誰にも理解されず、所属学会にも載せてもらえないと考え、わりと自分の大学の紀要とかにニッチな論文を発表する人がいるんです。地方の女子大の紀要とかはくまなくチェックしてますね」

取材・文/ガンガーラ田津美

<著者プロフィール>
さんきゅーたつお 東京都生まれ。芸人。オフィス北野所属。お笑いコンビ「米粒写経」として活躍する一方、一橋大学、早稲田大学、成城大学で非常勤講師も務める。早稲田大学第一文学部卒業後、早稲田大学大学院文学研究科日本語日本文化専攻博士後期課程修了。日本初の学者芸人。著書に『ヘンな論文』、『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』、春日太一氏との共著に『俺たちのBL論』がある。

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