社会に浸透する「レイプ神話」
今年7月、刑法の性犯罪規定が110年ぶりに改正され、強姦罪は強制性交等罪に名称が変わり、男性も対象に含まれるように。また、被害者の告訴がなくても加害者を起訴できる。
●起訴の条件
改正前:被害者の告訴が必要
→改正後:被害者の告訴は不要
●被害者
改正前:女性
→改正後:男性を含める
●罪名と法定刑の下限
改正前:強姦罪/懲役3年以上
→改正後:強制性交等罪/懲役5年以上
改正前:強姦致死傷罪/懲役5年以上
→改正後:強制性交等致死傷罪/懲役6年以上
●そのほか
改正前:2人以上で強姦した場合に懲役4年以上とする集団強姦罪
→改正後:廃止
※新設:親などの「監護者」が18歳未満への性的行為をすれば暴行や脅迫がなくても罰する監護者性交等罪、監護者わいせつ罪を新設
詳しい変更点とポイントは上の表のとおり。岡田さんは、
「これまで法的に被害者ではないとされてきた男性が対象となった点について、一定の評価ができるけれど、これで事足りるかといえば別問題」と指摘する。
「陰茎の挿入のみを性犯罪とするという趣旨は変わっていません。明治時代にいまの刑法が作られたときの考え、男性の血統を守るためという発想が抜けていない。強制性交等罪という名前は性交をイメージさせる。性暴力を、性暴力と思えない人が多い社会のなかで、性交の罪であるかのような印象を与えてしまう。性暴力は支配の問題で、セックスの話ではないんです」
今回の法改正では、「相手の抵抗を著しく困難にするほどの暴行や脅迫」を用いた場合に限り、加害者を処罰できるとする『暴行・脅迫要件』も残っている。
「性行為に同意しなかったことの証明を被害者にさせるのではなく、加害者に、いかにして同意を取りつけたかを証明させるよう変えていくこと。まずは3年後の見直しに向けて訴えていきたいですね。110年ぶりの改正という動きをここで終わらせないように」
被害者の落ち度を査定するかのように重視する見方は、この社会に浸透している。「露出の多い服を着ていたから被害に遭う」「本当に嫌だったら抵抗したはず」などの偏見はあとを絶たない。また、「痴情のもつれ」「男性はどんなセックスも喜ぶはずだから、女性のようには傷つかない」といった思い込みも根強い。これらはすべて『レイプ神話』と呼ばれるものだ。
岡田さんは、これらの神話を「服装や行動いかんにかかわらず性暴力被害は起きます、加害者がいる限り」と、ばっさり切り捨てる。
「例えば、被害に遭って抵抗できなかったのは、本当に嫌だから余裕をなくしていた可能性もある。被害に遭ったとき、多くの人が恐怖でフリーズしてしまうことはよく知られています。レイプ神話を突きつめれば、家にいろ、となる。実際の被害状況を見れば、かなり多くの被害が、安全と思い込まれている“家の中”で発生しているわけですから。家を守る制度のなかで培われた物言いを、いまも続けているにすぎないのでは?」
性暴力被害者が置かれる状況はさまざまだ。
「被害に遭ったことを理由とした社会的な生きづらさは、多岐にわたります。例えば、仕事ができなくなりハローワークへ行くように言われたら、そこでもレイプされたと話さなくてはならないのか。国は1つの窓口で支援を受けられるワンストップ・センターの増設を目指していますが、本来であれば、性暴力サバイバーがいるという前提のなかで、さまざまな社会資源を提供できるシステムが必要。医療的なサポートを受けたい人、警察や弁護士を望む人、個別にタイムリーな支援が求められています」