『モイスチャーティシュ』⇒『鼻セレブ』

■100案から命名、鼻アップの動物写真も人気に

 日常生活の必需品、ティッシュ。その中でも、“保湿ティッシュ”の代名詞ともいえる『鼻セレブ』。その前身は1996年発売の『モイスチャーティシュ』だが、当時は“保湿ティッシュ”というカテゴリーが確立していなかったことや、パッケージデザインが店頭で目立ちにくいなどの要因で、苦戦した。

現行品の『鼻セレブ』のパッケージには子ヤギにかわって、子ブタの写真が使われている
現行品の『鼻セレブ』のパッケージには子ヤギにかわって、子ブタの写真が使われている
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 購入利用者からは、「使用感がとてもよい、デザインも品のある美しい青色で高級感がある」といった好意的な声がある一方で、保湿ティッシュを手に取ったことのない消費者も多かった。そのため、商品を試してもらうための方法を模索するなか、ネーミングやパッケージデザインの変更が検討された。

「当時、モイスチャーティシュを担当していた企画部員・デザイナーなどの企画会議において、代案となる商品名が100案近くあがりました。そのなかのひとつが『鼻セレブ』でした。当時の企画部長が、その商品名にピンときたことをきっかけに、その素案を時間をかけて現在のデザインまでにブラッシュアップし、商品化にこぎつけました」(王子ネピアマーケティング本部)。

 当初は、人間の鼻をデザインして面白さを押し出そうという意見もあったが、“しっとりふわふわ”“やわらかい”など商品イメージにもあった、白くてふわふわした動物をパッケージに採用。

 2004年にリニューアルした『鼻セレブ』が誕生した。発売直後から、ネーミングやデザインに「かわいい」「癒される」「おしゃれ」「面白い」といった多くの反応が寄せられ、保湿ティッシュの認知アップと利用者が増えた。発売翌年の’05年以降は、販売店舗数が加速し、売り上げは現在も『モイスチャーティシュ』の10倍以上になっている。

「ネーミングだけでなくデザインも併せて『鼻セレブ』であると感じています。今後も、お客さまに親しんでいただけること、身近に感じて可愛がっていただけることを第一に商品づくりに取り組んでいきたいと思っております」(同)

名前と消費者の主観・感覚がマッチした結果

 マーケティング論、広告論、ブランド論が専門の目白大学経営学部講師・越川靖子先生は次のように分析する。

「ブランドネームはいわば“名は体を表す”である。名前変更で売り上げがよくなるのは、ブランドコンセプトを表現する名前と消費者の主観・感覚とがマッチするからだといえる。

『まるでこたつソックス』は使用効果をストレートに理解させ、『鼻セレブ』はセレブという贅沢なイメージから鼻へのソフトな肌触りを連想させ、『カレーメシ』はカテゴリー創造による新奇性を感じさせ、『お~いお茶』は、父が「お~い(お母さん) お茶(いれて)」と言う姿を想像させる。

 このように私たちは言葉から何らかの解釈・意味づけを行い、ブランドイメージをもつ。ブランドネームは、これらを記憶から思い出す“取っ手”の役割をし、よくできた名前ほど購買時に一連の記憶が無意識によみがえり選択されやすく、購買や売り上げにつながる」