お金も見返りもない…でも夢がある
長い研究生活の中でさまざまな逆境にも遭い、やめたいと思ったことはなかったのだろうか?
「それは何回もあります。原因はほとんどエジプト情勢の問題でした。
特にピンチだったのは、’11年、政権崩壊したエジプト革命のときです。海外の調査隊の発掘権がすべて剥奪されたんです」
吉村さんは他国がすべて引き上げる中、とにかく続けることが大事だと、継続の道を模索した。このとき離婚後も改宗せずにイスラム教徒でいたことが奏功したという。
「イスラム教徒だということを前面に出し自分はみんなの仲間なんだと訴えたら認められて、発掘が再開できました。“そこまでエジプトのことを理解してくれているのか!”と思われて。理解していたら結婚してなかったんだけど。理解していなかったから結婚できたんだけど、そうは言わないで(笑)」
前出の高安さんは、吉村さんのすごいところは、何があっても屈しないことだという。
「エジプト政府の役人がしょっちゅう変わって許可が取り消しになったり、クーデターが起きたり、どれだけ翻弄されたかわからないんですが、絶対やめると言わない。エジプトを愛している、継続は力だと。その熱意がエジプト政府にも伝わるんですね。
発掘にお金はかかるし、見返りはというと、ない。文化を発見することや番組をつくって知らしめることしかなくて、有形なものは何もない。それでもやるんですから、夢の力は大きいですよね」
「夢」の最終章。いつかクフ王の墓を
第2の太陽の船プロジェクトは現在、順調に進行している。現地で強力なサポート役をするのが、吉村さんの2人の子どもたちだ。息子の龍人さん(48)は吉村さんのマネージメントを担当し、娘の佳南さん(45)は修復師のリーダーを務めている。
「息子とは親子というか同志のような関係です。交渉の際、僕のとつとつとしたアラビア語では相手によく通じないのですが、彼がいつもうまくフォローしてくれます。信頼できる最高のパートナーですよ。
娘も親子だから損得なしにやってくれている。僕のことを尊敬してくれてて、付き合う彼氏やその両親に僕の自慢ばかりしてしまうから、なかなか結婚はうまくいかないみたいだけど(笑)。
カミさんとはエジプトに行くと30分くらい話します。元気ですか? と。元気だからいるのよなんて返されたりして。また喧嘩になるとよくないから、そうかそうかと(笑)」