もうひとり、徹子の両親の仲間で、ダンサーのダニー(新納慎也)である。敗戦後、出征していたダニーは捕虜となった。ヒロポン(覚せい剤)打たれて寝ずに働かされ、地獄の日々を送り、帰国する。
元伯爵令嬢で恋人のエミー(凰稀かなめ)は、ダニーが出征後、消息不明となり、悲しみに打ちひしがれたのだが、生きていくためには踊り子として自立するしかなかった。場末の酒場で踊り子をしていたところに、ダニーが帰ってきちゃったのだ。
そこで仲良く、とはならなかったのは、ダニーの男のプライドである。エミーはどんな形であれ働いて、自立した女として確立していたのだが、ダニーはその変化についていけずに、再び行方をくらましたのだ。
自分の足で立とうとする女や、たくましく前を向く女を、ちんけなプライドから受け入れられない男たち。そこ、アラート鳴っちゃうよねぇ。
さらにもうひとり。自分勝手な印象しか残らないのが、徹子が恋をした相手、ピアニストの城田優である。東京で淡い恋心があったものの、成就ならず。しかし数年後にニューヨークで再会。
ところが、勝手にプロポーズしてきて、「パリについてきてほしい」だと? 徹子の今までの努力と功績、女優としての生きざまを全否定じゃねぇか。アラートどころか怒りを覚えた。そんな男についていかないで正解だったよ、徹子!
というわけで、改めて思ったのは「徹子、すげえ」という点である。価値観が激変する時代を生き抜き、「働く女・自立した女」を貫いたのだから。敬意を表するとともに、120歳くらいまで生きてほしい。いや、もっといけるかもしれないな。
吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/