若竹さんは、桃子さんに自分の思いや感情を仮託しながらこの作品を書き上げたという。物語の中には桃子さんと“ばっちゃ”との思い出が随所に盛り込まれているが、それらは自身の記憶とつながっている。

「桃子さんのばっちゃと同じく、私の祖母もお裁縫が得意でした。目が見えにくくなった祖母に『安寿と厨子王』といったお話を朗読して聞かせると、“さかしい(賢い)”と褒めてくれまして。そのたびにさかしいような気になっていましたね(笑)」

直木賞受賞の門井慶喜さんと(2018年1月)
直木賞受賞の門井慶喜さんと(2018年1月)
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 物語の行間からは桃子さんの幸せな子ども時代がにじみ出ている。では、若竹さんはどんな子ども時代を過ごしたのだろうか。

「私は三人きょうだいの末っ子なんです。姉とは5歳、兄とは7歳と年が離れていることもあり、祖母はもちろん、祖父にも両親にもすごく可愛がられて育ちました。そのおかげで、自己肯定感が強い人間になれたように思います」

 部屋の中でストリップもどきの行動をしたり、かと思うと脳内でノリツッコミのような展開が繰り広げられたり。本書を読み進めるほどに桃子さんから目が離せなくなる。

子どものころから、自分がわかったことを面白おかしく書きたいという気持ちがありました。世間では、悲しみのほうが上で笑いは下等とされていますよね。 

 でも、自分を笑いのめすってすごく難しいことだと思うんです。自分を客観的に見ているからこそ、自分の中の面白さとか憐(あわ)れさを表現して笑いをとれる。笑いというのは意外と深い感情なんですよね。自分の殻を脱ぎ捨てることで、初めて笑いが生まれるんです