フジコが愛する絵、家、猫、そして……

 かつては憧れで、今では1年の半分を過ごすパリの自宅は、画家で建築家だった父の才能を受け継いだ自身の絵を飾りたくて購入したそう。

描いた絵がいっぱいあるの。絵を見ないで生きるのはつまらないから、全部かけることにして。この絵をあっちに移して、あの絵はここに飾って、ああでもない、こうでもないって。今の形に落ち着くまでに10年くらいかかりましたよ」

 1889年に建設されたアパルトマンで、歴史的建造物でもあるパリの自宅や、母との思い出が残る東京、緑に囲まれたサンタモニカ、コンパクトながらも居心地のいいベルリン、宮大工がリフォームした京都。「フジコ・ヘミングという名前よりも、家を残したい」と語る彼女の自宅は、ピアノの音色のようにどこも美しく、温かさを感じる。もしかしたら、彼女が愛する猫や犬たちが暮らしているためかもしれない。パリでは2匹の猫と1匹の犬と暮らし、東京には25匹の猫がいる。彼女にとって猫は、苦しい時期を支えてくれた大切なパートナー。どれだけ大切な存在なのかは「いつも恋している」と微笑(ほほえ)む彼女に、最近、惹かれた男性の話を聞いたときにわかった。

「彼も猫が好きで、猫を飼っているの。人間よりも猫が好きって言うところがいいなと思って。たまにね、憎たらしい口調でバッバ言う人なのよ。私は、絶対に人を傷つけることは言わない。どんなに怒っても辛抱するけど、彼は違う。たまによくわからない行動をすることもあって、なんだかさっぱりわからないけど、楽しいの。ふふふふ」

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 少女のような笑顔を浮かべる。その無垢(むく)な表情は、演奏を終え、観客からの大きな拍手に包まれているときと同じようでもある。

「せっかくお金を払って来てくださったんだから、素敵な時間にならないと困る。いつもは1日4時間練習するんですけど、演奏会の翌日はペッチャンコに疲れているから、そんなにできなくなりますね。

 私ね、毎日のようにマリア・カラスが歌うベッリーニの『清らかな女神よ』のようなイタリアや日本の歌曲を2〜3曲聴くの。日本の演歌も聴きますよ。そうすると力が湧いてくる。生きている喜びと勇気が出てくるの

 そう語るフジコが奏でる音もまた、誰かの生きる力になり、喜びを、勇気をもたらしてくれている――。

(取材場所提供/ベーゼンドルファー・ジャパン)

■『フジコ・ヘミングの時間』
シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
出演:フジコ・ヘミングほか 監督:小松莊一良 配給:日活
公式サイト fuzjko-movie.com