その後、元いた会社の人事部や県庁、都の産業労働相談センターなどに何度もかけあい、最終的に傷病手当金530万円、失業手当金190万円を受給することができた。
「さらに高額療養費制度を利用し、がん保険にも加入ずみだったので、高齢の母と同居中で独身の私も、治療に専念できました」
経済難は続く
無事に治療を終えた大塚さんだが、その後の環境の変化に大きく戸惑った。
「がんサバイバーの多くの方がぶつかる“第二の壁”と呼ばれるものでした。治療を終えれば、もとの身体に戻り、社会復帰して病気前の日常に戻れると期待していました。でも、思うように体力は回復せず、判断力も低下し、再就職も進まなかったんです」
大塚さんは、収入は減るのに支出が増えるという苦しい状態に陥ってしまう。無事に治療は終えたものの、医療費以外にかかる“がんサバイバーとして生きるための出費”が想像以上に多かったためだ。例えば、服や下着、靴などは、治療後の身体の状態にあったものを新たに購入する必要が出てくる。
「足のしびれが2年以上も続き、ヒールの靴ははけなくなりましたし、洋服のサイズも大幅に変わりました。またリンパ浮腫などの後遺症が出れば、弾性ストッキングなどの医療用着衣は必需品に。脱毛があれば、ウイッグや帽子も必要です」
体力が十分に回復していないため、「タクシーなどの交通機関を使わざるをえない。当然、交通費は増えていく」状態。身体の変化はライフスタイルにも影響する。
「胃腸の不調が1年以上続いたため、以前のようにファストフードやコンビニ弁当で食事を適当にすませるわけにもいかない。体力を回復させるためにも健康的で胃腸にやさしい食生活を心がけると、結果的に食費は増えるわけです」
現在は自身の療養時の経験を生かし、医療用の弾性着衣を扱うビジネスを起業した大塚さん。モットーは、『患者の、患者による、患者のためのお店』だという。告知から6年が経過し、大塚さんはこう話す。
「がん患者、がんサバイバーの生活をより快適にするために、情報や製品を提供し続けていきたいです」
大塚美絵子さん ◎医療用弾性ストッキング・スリーブ小売販売店『リンパレッツ』代表。大手監査法人退職直前の2012年に卵巣がん(漿液性)を発症。闘病を続けながら、'16年に現在の店舗を開業。がんとお金の勉強会ではプレゼンターも務める。