すべての出会いがつながっている
ジョーが天安門事件で撮った1枚の写真は、思わぬところにまで波紋を広げ、他人の人生に影響を及ぼす。1本の演劇や映画作品もそうなりうる、ということを満島さんは実感している。
「舞台に立って何かを人に伝えていくというのは、宣教師みたいなものだと思っているんです。こういう思いをもっている人たちがいるよ、こういうことがあるよ、と知ってもらうという意味で。役者が演じることによって、体験していない人が擬似体験をして、いままで見たことがない扉が開く。見ている人の人生に触れてしまうような、そういうエネルギーが舞台にはあると思うんです」
満島さん自身は高校生のとき、園子温監督の映画『HAZARD ハザード』を見て、人生が変わった。
「“あっ、俺と同じやつがいるんだ”っていう衝撃だったんです。僕にとってはあの衝撃がすべてのスタートでした。その映画はある大学生が、日本のぬるま湯みたいな状況にいても立ってもいられなくなって、危険だらけのニューヨークに行って右往左往する話。僕は映画も舞台もほぼ見たことがなかったのにたまたま見て、完全にエンジンがかかっちゃって(笑)。それがきっかけで園さんの助監督をやることになるんですけど。そのときは園さんに会えるなんて思っていないし、役者をやろうなんて思っていない。園さんが姉(満島ひかりさん)と『愛のむきだし』をやってたなんてまったく知らなかった。全部、出会いに引き寄せられたんです。思えば不思議ですけど、『チャイメリカ』もそういう話なんですよね。“全部つながっているよ”って。どんなことがあろうとね」
満島さんはこの作品で、「人生の総括」をしたいと意気込んでいる。
「リンが劇中で“自分自身に嘘(うそ)をつくのがうまい人が、最も幸せな人間だ”という言葉を言うんですが、僕も昔は自分に嘘ばっかりついてたんです。でも本当の自分じゃない自分に飽きちゃったんですよ。いまはとにかく舞台に立つからには、本当の自分を見つめなきゃいけないと思っています。
今回は自分が生まれた年の題材を20代の最後にやるんだから、余計なものをそぎ落として自分の人生の清算をしたいし、この30年間で何かを伝えられなかった人たちへの思いを込めたい。語り尽くせないくらい、時の流れとともに生きてるなぁと思うんです。だから自分の総括をして、お客さんにも人生を総括して、新たなスタートを切ってもらいたいんです。どういう状態で舞台に立てるのか、毎日何が起こるのかを考えるとワクワクして、身が引き締まります!」
1984年に英国で生まれた若手女性劇作家、ルーシー・カークウッドが書き上げ、2014年のローレンス・オリヴィエ賞で最優秀新作プレイ賞を含む5部門で受賞した戯曲を、栗山民也が演出。’89年の天安門事件を背景にしながら、時空を飛び越え、現代を生きる人々の問題に迫る意欲作だ。2月6日~24日 世田谷パブリックシアターで上演。以後、愛知、兵庫、宮城、福岡にてツアー公演あり。
公式サイト:https://setagaya-pt.jp/performances/201902chimerica.html
PROFILE
みつしま・しんのすけ◎1989年5月30日、沖縄県生まれ。2010年に舞台『おそるべき親たち』で俳優デビュー。’12年、映画『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』の森田必勝役で報知映画賞などの新人賞を受賞し、NHKの連続テレビ小説『梅ちゃん先生』で注目を浴びる。以後、主な出演作に映画『花筐』『三度目の殺人』『君が君で君だ』『キングダム』(4月公開)など。舞台では『ハムレット』『夜への長い旅路』『逆鱗』など。現在、NHK大河ドラマ『いだてん』に出演中。
(取材・文/若林ゆり)