人生が終わるかもしれない
──今回拡散された不適切動画は「仲間内のノリでやった」という認識だったようですが、それについてどう思われますか?
辛酸「女性が華やかな場所だったり、可愛い服だったり、おいしそうな食べ物をインスタにアップして“いいね”を欲しがるのに対し、男性は過激な動画をアップして“ワルに思われたい”。男女間で承認欲求の種類が全然違うんだなと思いました。思えば、70〜80代の男性でも“ヤクザの友達がいる”と自慢気に話す人はいますよね」
──拡散された動画のなかには『バーミヤン』のアルバイトが鍋から上がった巨大な火でタバコをつけるものもありましたが、あれはまさにその気持ちが前面に出ていますね。スマホがなかった時代からこのようなバイトによる悪ふざけはあったのでしょうか?
辛酸「やはりSNSの登場で助長されているような気はしますね。すぐ世界に公開できるという状況が人をおかしくさせているのかもしれません。そもそも画面に大量の大腸菌が付着しているといわれるスマホを調理場に持ってきていること自体がまずいと思いますが。女子がインフルエンサーに憧れる一方で男子は細菌をインフルエンスするというヤバい方向にむかっています……。
しかし、かつてバカッターが横行したときも名前や勤務先などが晒されて、人生が大変なことになった人がいたにも関わらず、いまだになくならないのが不思議です。SNSを始める前に“人生が終わるかもしれない”ということを知っておくべきですよね」
──それにしても、このような投稿を見つけてくる人もすごいですよね。24時間で消えてしまうインスタのストーリーズにアップされた動画を保存してアップし直しているわけですから。一体どんな人なのか気になります。
「楽しんでいる若者が嫌いな、歪んだ正義感で動画を探すネット上の風紀委員のようなものですよね。ストーリーズは消えてしまうわけですから、炎上しそうな人を見つけては常にチェックする愉しみがあるのでしょう。
もしかしたら、学生時代に動画に出てくるようなイケイケの人たちにイジメられた過去があったのかもしれません。あのとき、クラスの片隅で暗い目をしている人たちにもっと優しくしておけばこのような炎上は起こらなかったのかも……」
──今後、バイトテロが起こらないようにするためにはどうしたらいいのでしょうか。
辛酸「食べ物をゴミ箱に入れたりといった見る側にとっても傷つくようなイヤな動画ですし、知らない人に対して怒りが湧くという、精神衛生上よくないことになっています。過激な動画をアップすることで仲間内から“ヤバイ奴”と賞賛されることより、お客さんをサービスで喜ばせることが承認欲求につながるようになればいいと思いますね」
辛酸なめ子/漫画家・コラムニスト。
東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)『おしゃ修行』(双葉社)『魂活道場』(学研)、『ヌルラン』(太田出版)など。