こうした無理のない働き方で、3人とも月2万~3万円ほどの収入を得ている。仕事を終えた10時以降は、喫茶店に繰り出しておしゃべりを楽しむのが通例だ。

黙々とベビー用品を品出しする鈴木さん(手前)と佐藤さん(奥)
黙々とベビー用品を品出しする鈴木さん(手前)と佐藤さん(奥)
【写真】パッと明るい笑顔で仕事に精を出す土屋さん、池野さんら

「そのあとは、お昼には家に帰って家事をやり、主人に食べさせて。ときには孫の面倒を見たり」(水村さん)、「今でしたら桜を見に行こうかなあと」(佐藤さん)

 鈴木さんは、「畑があるので家で食べる分の野菜を作っています。新鮮なものが食べられていいですよ」

 それぞれ充実した時間を過ごしているようだ。3人が口をそろえて語る。

「長時間の仕事では、身体が悲鳴を上げるだけ。それよりも、ここで仲間と会えるのが楽しい。行くところがあるということは、お金に換えられないものだと思います」

多くのシニアから喜びの声

「現在、東は茨城の筑波、西は兵庫の姫路まで1200店舗ありますが、出店エリアのいずれにもまだまだお元気なシニアがいる。“シニアたちに、何か提供できないだろうか?”とアイデアを出し合い、生まれたのが、お店に毎日届く商品を品出ししてもらう、というこの働き方でした」

 こう語るのは、スギ薬局広報の日野清孝さんだ。

 オーナー夫妻が立ち上げた小さな薬局から始まった同社は、現在では高齢者施設なども訪問。居住者に服薬指導をするなど、社会貢献活動も盛んだ。そうしたときに出た“働きたくてもその場所がない”との声も、制度誕生の後押しになったと日野さんは言う。

 社会との接点を提供することで、心身両面の健康を保ち、健康寿命を延ばすという目的があるとか。

「現在は愛知、岐阜、三重の全域と、静岡と滋賀の一部の計300店舗で実施しており、平均年齢70歳のシニアに働いてもらっています。そのうち男性は2割ほど。ゆくゆくは関東や関西にも広げたいと思っています」(日野さん)

スギ薬局 広報室室長 日野清孝さん
スギ薬局 広報室室長 日野清孝さん

 働きたい元気な高齢者と、人手が欲しい企業双方の需要を満たすこの取り組み、社員やスタッフ、シニアの双方から好評だと語る。

「社員やスタッフからは、“おかげで接客に集中できる”という声が。シニアからは、居場所があるという喜びの声が大きいようです。毎日、店に出て社会参加して友人もできる。“これがあるから元気”とおっしゃるシニアが多い」(日野さん)

 定年がなく、体調が許せば何歳になっても働ける。広い店舗を歩いて商品を補充することは有酸素運動や筋トレになるし、商品棚を覚えるのは、脳トレそのものだ。前出の看板娘が異口同音に語っている。

「ここへ来て、仲間と会えるのが楽しみ。体調が続く限り、続けていきたい!」