子どものころに1度は読んだ、見たことがある作品でも、大人になって読み直すと、また違った感想と感情をめぐらすことができる。例えば、小学校で習う児童文学の定番作、新美南吉の『ごん狐』だ。
「小学生で読んだときは、“狐のごんが殺されてかわいそう”と思って終わりですよね。でも、大人になると、実際に親を亡くしたりと、さまざまな経験を積み重ねてきていることでしょう。今度は、ごんの立場だけではなく、ごんを撃った母を亡くした兵十の立場など、いろんな人たちの気持ち、視点になって物事をとらえることができます。
また、言葉から音が聴こえてくる、においがしてくる、そういうものを書けるのが本当の作家です。特に芥川龍之介は、情景が浮かぶような言葉を天才的にふわっと出すことができるのですが、そんな情景を思い浮かべ、思い起こしながら読む。これは子どもにはできないこと」
また音読をすることは、医学的視点から見ても「脳の活性化」や「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)の予防」などのメリットが多く、「子どものものだけにしておくのは、あまりにももったいない」と、医師の森田豊先生も太鼓判を押す。
最後に今1度、山口先生に“音読のすすめ”を問うた。
「現実も大切ではありますが、音読をすることで、しばし作品の世界にたっぷり身を浸してみてください。そうすることで心と身体に、豊かな元気の素を育むことになるのではないでしょうか。普段、音読をする機会はなくなっているかもしれませんが、ここで童心に返って、また大人としてあらためて日本語の持つリズムと美しさ、楽しさを感じていただきたいですね」
■読む前の「音読体操」で口まわりのシワも改善!
・口を閉じた状態で、舌を歯の前に出し、頬のほうまで左右10回ずつ動かす。
・唇をぶるぶると震わせる。思い切り舌を出して伸ばす。
・口を大きく動かしながら「あいうえお」を発声する。
とにかく口のまわりの筋肉を意識して動かしましょう。音読でも、恥ずかしがって小さな声で口も動かさないのであれば、意味はありません。下手でもいいから大きな声で、シワをつくらないためと思って大きく口を動かしましょう。
<プロフィール>
山口謠司 博士(中国学)大東文化大学准教授
ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。専門は文献学、書誌学、日本語史など。NHK『チコちゃんに叱られる!』ほか各種メディアでも活躍。『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』など著書多数。