死後3か月発見されず

 さゆりさんの遺体が見つかったのは、真夏を過ぎて、秋に差しかかったころだった。

 2階の窓から、大量のハエが見えることを心配した近所の住民が、警察に通報して孤独死が発覚。死後3か月が経過していた。ひと夏を過ぎたさゆりさんの体液は、トイレと脱衣所の床一面に染み渡り、大量のウジとハエが発生していた。さらに体液はクッションフロアをとうに突き抜けて、ベニヤや断熱材、建物の基礎部分まで浸透していた。遺体が長期間発見されなかった場合、このように、建物の深部まで体液が浸透するケースも多いのだという。

 塩田氏は、さゆりさんの死について、無念な思いを語る。

さゆりさんが愛していた彼氏と一緒に人生を歩めなかったこと、肉親を頼れなかったことが、病気だけでなく、彼女の精神をむしばみ、死を早めてしまったんだと思います。

 さゆりさんは、40代という若年層ということもあり、地域包括支援センターなどの見守りの対象者ではない。また、戸建て住宅は、賃貸物件と違いプライバシーの問題で、近隣の住民が立ち寄らないことも多い。それがなおさらご遺体の発見を遅くしたんだと思います。ご本人の孤独な境涯が死を早めるんです。心を閉ざして、人生さえ早く幕を閉ざしてしまう。本当に切ないです

 現在、この住宅はリフォームされ、別の住人が住んでいるという。

東京23区では1日あたり約21人が孤独死

 東京都監察医務院では、孤独死「異常死の内、自宅で死亡した一人暮らしの人」と定義している。通常、人が亡くなった時点で病死と判明している場合は、自然死として処理される。異常死とは、そもそもの死因が不明な遺体のことだ。この異常死に該当すると、解剖などが行われることになる。

 東京都監察医務院は東京23区内で異常死が出た場合に解剖を行う機関だが、そこでは、この「異常死」のうち、自宅で亡くなった数を孤独死としてカウントし、その統計を毎年公表している。この統計が孤独死の数を知る数少ない手がかりとなっている。

 それによると、東京23区において1987年には、男性788人、女性335人であったものが、ほぼ20年後の2006年になると、男性では2362人、女性では1033人となっており、20年前に比べて約3倍にも膨れ上がっている。

 2015年には、男性4995人、女性は2683人とある。1年間に、東京23区において、総数7678人が孤独死しているということになる。東京23区に限定しても、1日あたり約21人が孤独死で亡くなっているのである。