“カスタム”をすれば堂々と歩ける

 嫌でたまらなかった顔は、いくらでも変えることができる。

 あるべき自分に戻れることに、気がついた。クリニックからの帰り道は、羽が生えたかと思うほど足取りが軽かったという。前出の長原さんは、友人の変化をこう話す。

「初めて整形したあとだったかなあ、久々に会ったら目が大きくなっていた(笑)。でも昔から知っているからか、見た目は変わってもあまり“変わった”っていう気はしないんですよ。思いやりがあって優しいという中身はそのままでしたから」

 それまでは、顔を隠すかのようにうつむいて歩くのが常だったというヴァニラさん。だが、カスタムの後は顔を上げ、堂々と歩いていることに気がついた。

 カスタムによる変化はまさに衝撃的だった。目をより大きくくっきりと見せる目頭と目尻の切開を決意するのに、時間はそれほど必要なかったという。となれば、鼻もどうにかしたくなる。憧れのフランス人形を目指すべく、プロテーゼ(人工軟骨)で劇的に鼻筋を通すオペを受けた。

 こうなると、バイトではお金がもたない。バンドの練習場が大阪だったこともあり、高校卒業と同時に実家のある田舎町を出て大阪へ。クラブでの夜の仕事に飛び込んだ。

「やっと(家を)出られるわい! という感じ(笑)。もとには戻りたくないと思いました。でも寂しがり屋なんで、初日だけは寂しかったですね」

キャバクラ時代のプロフィール写真。ロリータファッションをすることも
キャバクラ時代のプロフィール写真。ロリータファッションをすることも
【写真】ヴァニラの整形前、ナチュラル顔の小中高時代

 クラブでの仕事を選んだのは、きれいな女性が多く、勉強になると思ったから。自分がきれいになればなるほど収入に結びつく点も魅力だったと語る。

 とはいえ家庭では抑圧的に育てられ、学校ではいじめを受け続けてきた身には、接客業に必須のトークは苦行そのもの。お客様の前に出ても緊張で固まってしまい、こわばった微笑みを浮かべるのが精いっぱい。どうにか接客ができるまでに1年かかった。

 たまらなくしんどかったが、やめようと思ったことはないという。

「クラブとか水商売は厳しいし、1週間で辞めちゃう子とか多いじゃないですか。でも、ここで頑張ることで強くなれると思ったんです。というか、逆だと思うんですよ。ここで頑張らなかったら、自分が求めるものにたどり着かない。逆にすぐに辞める人の気持ちのほうが私にはわからない」

 そうまでして目指すのは、フランス人形のような究極の美と、子どものころから抱いていた、アーティストになるという夢の実現。

6年前のブレイク

 音楽がやりたいと芸能プロダクションに所属していたが、どうも芽が出ない。そんなとき、とある芸能プロダクションが新たなタレントを求め、新人発掘を行うという。それが現在、所属する『ツイン・プラネット』だった。

「自分が整形していることを売りにすれば、有名になれるとわかってた。だから社長にもそう言って。私、クラブ時代から整形していることを公表していたし、整形が悪いことだとは少しも思わなかったから」

 いちばんやりたいことは、昔も今も変わらず、音楽。アーティストになるための手段こそが美容整形。カスタムは公私の両面で、ヴァニラさんのもっとも頼れる武器ということになる。

『ツイン・プラネット』のチーフマネージャー、中井晴夫さんがこう証言する。

「ヴァニラと会って、“フランス人形になりたい”と言っているのを聞いて、これは面白い生き方だと思いました。芸能界って、整形って隠すのは当たり前じゃないですか。それを堂々と公言していて、しっかりとしたポリシーというか、自分の哲学を持っている。賛否両論はあるだろうけど、共感を得られる子だと思いました」