今月28日に開幕する『第32回東京国際映画祭』。
先日、都内で行われたラインナップ記者会見に続き、オープニング作品『男はつらいよ お帰り 寅さん』の山田洋次監督(88)が外国人記者クラブで会見するなど、開催ムードを盛り上げようと関係者の努力が続くが、
「当初は華々しく打ち上げられた映画祭ですが年々、映画祭としての位(くらい)が低下しているというか」
と手厳しいのは映画ライターだ。海外の映画祭では、メディアや関係者が、映画祭のロゴ入りのトートバッグやリュックを背負って取材する風景まで含めてお祭りムードが高まるのだが……。
監督は真顔で指摘
「東京国際映画祭も、以前はけっこう使い勝手のいいトートバッグに資料を入れて配っていたんです。予算の兼ね合いで、いつの間にかすたれてしまいました。今年のラインナップ会見では、クリアファイルに入れられた分厚い資料を渡されただけ。プレスルームはまだ見ていませんが、当初の大スペースの部屋から、いつの間にか20畳くらいの部屋になっていますからね」
前出・映画ライターは、ため息まじりにそう伝える。
32回目と回数は重ねたが、いまいちパッとしない国際映画祭。その理由を、ラインナップ会見に出席していた山田監督が見事にエグリ、関係者を冷や冷やさせた場面があったという。
情報番組ディレクターが伝える。
「会見の最後のほうで、山田監督ら4人のフィルムメーカーがステージに立ちました。司会者が、『この映画祭で何を楽しみたいですか?』と聞いたところ、ほかの方は『京マチ子さんの特集を楽しみたい』とか、いち参会者としての思いを口にしたのですが、山田監督だけは違いました」
ひと呼吸おき、こう続ける。
「『東京国際映画祭が早くフィロソフィー(哲学)を持ってほしい。早くそれを発見して行ってほしい』。真顔でそう指摘したのです」
司会者は、タイムスケジュールを守るため、山田監督の発言の真意に「どんなフィロソフィーが必要か?」と聞き加えることはなかったが、少なくとも山田監督は“東京国際映画祭にはフィロソフィーがない”と考えていることが明らかになった瞬間だった。
「要は、この映画祭に世界中の映画人が注目しているかどうかということです。昨年は、レディー・ガガ主演の『アリー/スター誕生』がオープニング作品でしたが、あれだけ親日家のガガもレッドカーペットに来ることはありませんでした。代わりに女優の寺島しのぶがスペシャルサポーターとして登場して花を添えていましたが、その代役感が映画祭のポジションを物語っていましたね」
山田監督の指摘を主催者はどう受け止めるのか。すでに哲学がある、と考えているのか、もしまだ足らないというのであれば、どう哲学を手に入れようとするのか。具体的なノウハウがないだけに、難しいところだ。
<取材・文/薮入うらら>