ポロっと出てくれば、しめたもの

 法務省によると、保護司の数は平成31年の統計で全国に4万7245人。前述したとおり、全員が完全なボランティアだ。だが、その献身を理解できない人もいる。

「私が保護司になった20年ぐらい前だったかな、担当した女子高生の父親がベンツで乗りつけてきて“団地から保護司が出るようになったのか”と言われてね。私は“だからなんなんだい! 立ち直りを支えるのに家の大きさや広さは関係ないはずだ!”と思って、さすがにムッとしたことがありましたね」

 無償なだけにかつて保護司は裕福な人が務めることが多かった。父親はごく普通の家庭の主婦が保護司をしていることが信じられなかったのだ。

「おまけに娘とは縁を切りたいって。だから“私だったら畳半畳もあれば、あなたの娘さんときっちりと向き合いますけどね!”って」

 お金があっても貧しい人がいる。そんな人の子も、わが子のように受け入れていた。

 保護司とは、母・はるさんの言葉のように、とことん“見返りを求めちゃダメ”な職務なのだ。

 正式に保護司となったことで、『更生カレー』を作る機会も量も飛躍的に増えていった。だが対象は、地域からは邪険にされ、警察からも学校からもにらまれている子どもたち。容易に心は開いてくれない。

「そういう子を家に上げると、最初は“入っていいんですか!?”と戸惑う。そんな子にまずはお茶を出してお菓子を出して、最後にカレーを出すと、そのうちポロッと、“美味いですね……”。

 でもポロッと出てくれば、しめたものなの(笑)」

 17歳のときお世話になった小針将志さん(26)が言う。

「基本的に説教とか偉そうなことを言わないんです。会っても“あの子は最近どうしてる?”とか、友達と話している感じとあまり変わらない。

 そんな普通の会話の中に“関わる仲間を考えろ”とかを遠巻きには入れているんだけど、当たり障りない言い方だから、不快感なく聞いていられる」

 保護者も中澤さんのコミュニケーション能力を高く評価している。将志さんの母親である小針佳寿美さん(47)が言う。

「将志が中澤さんと最初に出会った17歳のころは言葉遣いも反抗的で、私がなにか言うと“ババアに何がわかる!”。

 でも中澤さんと会うようになると対応がやさしくなりました。“これはこういうことなんじゃないの?”と言うと、“そうだよなあ”って。

 中澤さんが将志にやさしく接してくれて、“そっか、そっか”と温かく聞いてくれた。

 それがよかったんじゃないでしょうか」