今年6月に金融庁が公表した報告書(高齢社会における資産形成・管理)は、庶民にとってショッキングなものだった。
人生100年時代の老後生活をまかなうには、年金だけでは足りない。不足金額は夫婦2人で約2000万円──。
「年金だけじゃ暮らしていけない?」「2000万円なんて貯められるわけない!」「人生詰んだ……」
日本中が大騒ぎとなった老後2000万円問題。夏を迎えても収束する気配はなく、報告書は9月に撤回された。しかしながら、不安は残されたまま……。結局、あれはなんだったの? やっぱり、2000万円は必要なの?
100世帯あれば100通りの老後家計がある
社会保険労務士の北村庄吾さんは、
「あれはモデルケース。なので、そのものズバリで当てはまる人はなかなかいないと思いますよ」
この金融庁の報告書でモデルになっているのは夫65歳以上、妻60歳以上の無職世帯で、夫婦のみで暮らしている。
「その生活には月に約26万4000円かかり、年金がメインの収入は約20万9000円。差し引き、月に5万5000円が不足する。1年で66万円、老後30年で1980万円足りませんよ、と言っているわけです」
ちなみに、夫婦で20万円超の年金をもらうには、
「令和元年のモデルケースでは、夫が40年間働きながら厚生年金を払い続け、平均月収は約43万円。専業主婦の妻は結婚前に年金保険料の未納がないなどの条件があります」
年金額は人それぞれ。自営業者は厚生年金がないし、夫婦共働きの世帯もあれば、独身のまま老後を迎える人も。老後の生活費も持ち家か賃貸か、子どもや孫の有無、病気やケガなどによって大きく変わってくる。つまり、100世帯あれば、100通りの老後家計があるのだ。経済評論家の山崎元さんはこう話す。
「あの報告書は、あくまでも平均値をもとにしたひとつの計算例にすぎません。老後の年金も支出も個人差が大きく、備えておきたい金額は人それぞれ。なのに、平均値を出して脅かすやり方は感心しません。でも、2000万円問題が連日メディアで取り上げられたことで、各地の金融セミナーは大盛況。iDeCoやつみたてNISAの申し込みは倍増しました。結果的に“炎上マーケティング”として成功したわけです」
確かに2000万円問題以降は“老後資金、なんとかしなきゃ!”という意識が多くの人に芽生えた。
「こんなときですから、2000万円にかこつけたリスクや手数料の高い金融商品を売りつけられないよう、気をつけましょう」
ファイナンシャルプランナーの山口京子さんは、あきらめてしまわないことが大切だと訴える。
「人生100年とすれば、老後は40年くらい。超長いです。その時間をどう過ごしたいかイメージしてください。どこにも出かけず家でじっとしていれば、さほどお金はかからないかもしれませんが、楽しいかどうか……。
仕事も子育ても終えた老後は、旅行にも行きたいですよね。孫には、お年玉や入学祝いもあげたいですよね。そんなゆとりある老後生活は年金だけではまかなえません。では、足りない分をどう補うのか? 自助努力です。今からしっかり考え、行動することで、老後の生活は変えることができるんです」