認知症の人が徘徊するときは、必ず目的があるのだという。
「だから、“徘徊”という言葉自体、使い方が間違っているんですけどね。いずれにしても、出かけようとしている利用者さんを力任せに止めたりはしません。それより、目的を聞いてみて、“仕事に行く”と言うなら、仕事より大事なことをこっち側に作るんです。そうやって、理に基づいて対応する。頭、いっぱい使います」
出入り口にはセンサーを設置。出入りがあれば、即座に職員が気づくように工夫している。
それでもごくまれに、職員の目をすり抜けて出て行ってしまう場合もある。
「現実をそのまま映してくれ」
その現場を目撃したのが、2012年、NHK『プロフェッショナル~仕事の流儀』で和田さんを密着取材したカメラだった。
当時の担当ディレクターで、小国士朗事務所代表取締役・プロデューサーの小国士朗さん(40)が話す。
「撮影に行ったら、パトカーがいて、利用者さんがいなくなったと騒動になっていました。和田さんにとっては、“そら見たことか”と、批判されかねない場面です。なのに、“現実をそのまま映してくれ”と。和田さんは、ただ自分が正しいと思っているわけじゃないんです。
無事に保護されてからも、悩んで、迷って、利用者さんにとって最善の環境を作ろうと模索していた。その姿に、この人は信用できると感じました」
番組は大きな反響を呼び、和田さんが実践する介護は、多くの人に受け入れられた。
それは、ありのままの姿をカメラにさらしたからだと小国さんは言う。
「カメラが回っていようが、まったく変わらない。あきれるほど丸裸な人。もう、すっぽんぽん(笑)。自分をとりつくろわないのは、ずっと闘ってきたから知ってるんですね。都合の悪いことを隠したり、いいところだけ見せても、見透かされる。介護の現状を変えるためにも、ありのままを見せて、どう判断するかを相手にゆだねようと。あとは性格だな。そういう人なんです」
恋多き男─。それが、和田さんのもうひとつの顔だ。
「最初の嫁さんの長男坊は42歳で、介護の仕事をしています。今の嫁さんとの間には4人の子どもがいて、末っ子は4歳です」
結婚歴は3回。上は42歳から下は4歳まで、幅広い年齢層の子どもがいる。
現在の妻と再婚したのは11年前。22歳年下で、仕事の関係で出会ったという。
「嫁さんも介護の仕事をしていて、研修会に講師として行ったときに僕のお世話役だったとか。でも、そのときのことは、記憶にないんですよ」
記憶に刻まれたのは、2度目の研修会で再会したとき。懇親会で偶然、隣に座った妻に、「この女、好きやなあ~」とひと目惚れしたそう。
「当時のメールを嫁さんに見せてもらったら、ストーカーか! っていうくらい、俺、猛プッシュしてて。しょうもないなあ(笑)」
現在、妻と子どもたちは名古屋で暮らす。
東京を拠点に全国を飛び回る和田さんは、月に数回しか自宅に帰れないことも多い。
「子どもと会えなくても、寂しいとか、あんまり思わないけど、嫁さんにしばらく会わないと、気持ちがしぼんでくる。俺、かまわれすぎると逃げるし、かまわれなくても逃げる。めんどくさいやつなんです。今の嫁さんは、上手なんですね、手綱さばきが」
メロメロですか? と尋ねると、しばし考え、口を開く。
「ようわからんけど、結婚した当時より、今のほうが好きですね。なんでかなあ。俺、本当は気が小さいのに、自分に嘘をついて、強く見せちゃうとこがあってね。だけど、嫁さんの前では、そうしなくていいから、すごくラクやねん。ハハハハ」
照れ隠しに、大笑いをする。