行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は連れ子がいて結婚する場合のトラブル事例を紹介するとともに、その解決法を考えていきます。(前編)

※写真はイメージ

 昨年の3月、母親の再婚相手が自宅の浴室で5歳の女児に水のシャワーを浴びせるなどの虐待を繰り返した末に死亡させた目黒女児虐待死事件。幼い命が奪われる前に何とかできたのではないか……児童相談所の対応をめぐって賛否両論を巻き起こし、大きな注目を集めたのは、まだ記憶に新しいところです。そして10月、東京地裁は再婚相手に懲役13年の判決を言い渡したのですが、彼がどんな裁きを受けようと、残念ながら女児の命が戻ってくることはありません。息を引き取ったら、もう取り返しがつかないのです。

 母親の彼氏、同棲相手、再婚相手……子どもにとって彼らは血のつながりもない赤の他人です。そんな男がある日突然、「父親」として現れ、家族の一員に加わり、ひとつ屋根の下で暮らし始める。そんな義理の父親の手によって連れ子が命を落とすケースが最近、続出しています。例を挙げると、母親と交際相手、その友人があおむけだった4歳の男児の腹部を殴って内出血で死なせたケース(大阪府箕面市)、母親の交際相手が4歳の女児を風呂場で溺れさせ、死亡させた罪で逮捕されたケース(鹿児島県出水市)など。

 もちろん、義理の父と子どもが良好な関係を築いている家庭も多いと思いますが、虐待を受けるような危機的状況に陥ってしまった場合、最悪の結末を迎える前になんとかしなければなりません。そこで今回は、母親の再婚相手から虐待の被害を受けた子どもを守るため、手遅れになる寸前で逃げ込み、相手に慰謝料や養育費を払わせ、再出発を図ることができたケースを紹介しましょう。

<登場人物と家族構成・属性(すべて仮名、年齢は離婚時)>
夫:恩田圭(38歳)自営業(土木業、年収不明)
妻:千穂(32歳)専業主婦
長女:奈々(10歳)千穂と既婚男性との子
長男:義人(1歳)千穂と圭との子

シングルマザーで心身ともに
疲弊していたときに現れた男

「うつ病で3度、自殺未遂をしてしまいました。お医者さんからは入院をすすめられていますが、娘と息子がいるので、そういうわけにはいかないんです!」

 そんなふうに苦しい胸の内を吐露してくれたのは磯谷千穂さん(32歳)。相談当初、千穂さんは結婚3年目でしたが、それまで夫の異常性格、虚言癖、そして攻撃性に悩まされ続けた日々だったようです。

出会って3か月で彼と籍を入れました。私は昼と夜の仕事をしていて、夜のお店で知り合いました。土木の仕事を自分でやっているって聞きました。娘のこととか、いろいろ不安だったんですが、彼は娘を自分の子どもとして育てるって言ってくれたので

 3年前の心境を振り返る千穂さん。千穂さんは今回が初婚ですが、22歳で出産を経験しており、夫とは子連れ結婚でした。当時、7歳の娘さんは千穂さんが未婚で出産した婚外子。千穂さんが結婚を望んでも、子の父親は既婚者なのでかなわずじまい。その彼とはケンカ別れをしたため、千穂さんはそれまで認知を求めず、養育費も請求せず、女手ひとつで娘さんを育ててきました。父親不在の家庭で、娘さんには不憫(ふびん)な思いをさせてきたと言います。

 20代前半の千穂さんが娘さんを養うのは容易ではなく、昼だけでなく夜の仕事を始めたせいで無理がたたった模様。心身ともに限界の千穂さんに救いの手を差しのべてくれたのが、夫となる恩田圭だったのです。

 年収も仕事場の住所も知らない相手ですが、何より千穂さんは娘さんに父親の存在が必要だと考えていました。「夜のお店をやめたい!」と藁(わら)にもすがる思いで夫と一緒になったと言います。娘さんと夫が養子縁組することで、晴れて2人は夫の姓(恩田)を名乗ることができたのです。最初のうち、千穂さんは夫が自分だけでなく娘さんにも愛情を持っていると思い込んでいたようです。その後、夫婦の間に男児が誕生。一見すると幸せを絵に描いたような生活を送っていたのですが……。

 千穂さんは桐谷美玲似の美貌の持ち主。夫は美人を落とすために猫をかぶっていたのでしょうか? 夫が隠していた本性が少しずつ透けて見えてきたのです。