「正月映画」という言葉をご存じだろうか。

 多くの人が一斉に休みに入り家族そろっての外出が見込まれるお正月休みは、映画業界にとっては書き入れどきともいえるため、その年の“目玉映画”を11月中旬くらいから年明けにかけて公開する。そういった映画を「正月映画」というのだ。

 そんな「正月映画」という言葉、以前はよく耳にしていたが、最近は使われなくなって久しい。日本映画のスタジオシステムが機能していたころは、東宝、東映、松竹など、各社がそれぞれの特徴あふれる「正月映画」を製作し、映画館を賑わせていた。それだけでなく、正月という時期は洋画においても人気大作が並び、多くの観客を映画館に動員させていたという歴史がある。

『男はつらいよ』と『釣りバカ日誌』

 特に、1969年から始まった松竹の『男はつらいよ』シリーズは、多いときには年に3作のペースで製作されており、お正月の定番となっていた。

 山田洋次監督・渥美清さん主演の本シリーズは、“フーテンの寅”こと露天商の車寅次郎を渥美清さんが演じ、帝釈天のある葛飾区柴又の実家に帰ってくると巻き起こる騒動や、寅さんの妹・さくら(倍賞千恵子)との交流、マドンナたちとの淡い恋模様などを描き、国民的人気を博していた。

 渥美清さんの病をきっかけに、1990年代からは1年に1作の製作となったものの、1995年までは毎年製作が続けられていた。1996年に渥美清さんが亡くなったことから、1997年に公開されたシリーズ49作の『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別編』がシリーズ最終作となっていた。

 そして、『男はつらいよ』シリーズの同時上映作品として人気を集めたのが、山田洋次監督・西田敏行主演の1988年に開始された『釣りバカ日誌』シリーズだ。釣りに目がないヒラ社員のハマちゃん(西田敏行)と、社長のスーさん(三國連太郎さん)の2人が日本各地で釣りをしながら珍騒動を繰り広げる。

 1994年の『釣りバカ日誌7』まで、新たなお正月映画として親しまれていた(1996年の『釣りバカ日誌8』以降は夏の公開が中心となり、シリーズ20作となる2007年の『釣りバカ日誌18 ハマちゃんスーさん瀬戸の約束』まで“夏休み映画”として公開された)。