公正証書遺言で息子の「未成年後見人」を指定

 離婚してから志保さんが亡くなった場合はどうなるのでしょうか? 息子さんを引き取る人のことを『未成年後見人』といいますが、今回の場合、未成年後見人の候補は夫と志保さんの母親です。

 筆者は志保さんの注意を喚起しました。

離婚するだけでは不十分です。離婚して旦那さんが親権を失っても、息子さんの父親であることに変わりはありません。裁判所が今回の事情を知らなければ、後見人を夫に指定する可能性もゼロではありませんよ」

 実際、残された遺族(志保さんの母親)が夫の悪行の数々を証明できるかどうか定かではありません。そのため、志保さんは離婚するだけでなく、誰を「後見人」にするのかを指定する必要があります。離婚して唯一の親権者になれば、志保さんの一存で後見人を指定することが可能になります(民法839条1頁)。

 筆者は『公正証書遺言』という形で残すことをすすめました。志保さんの希望を正式な形で書面化しておけば、裁判所が志保さんの意志を尊重してくれる可能性は高まります。もちろん、志保さんが夫ではなく母親を選んだことを知れば、夫は激怒するでしょう。しかし、証人を立てて後見人を指定するこの遺言は志保さんひとりで作ることが可能なので、夫に協力してもらう必要はありません。具体的な文面は以下のとおりですが、公正証書の原本は母親に預け、しかるべきときのために使ってほしいと託したのです。

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参考)公正証書遺言の書式

公正証書遺言

本職は遺言者・松島志保の嘱託により、証人・◯◯◯◯、◯◯◯◯の立会の上、次の遺言の趣旨の口述を筆記しこの証書を作成する。

遺言者は未成年の子、松島湊(2003年5月10日生まれ)が成人する前に遺言者が亡くなった場合、大村志乃(◯◯県◯◯市◯◯3-4-20)を後見人に指定する。

2018年12月27日

住所 △△県△△市△△3-8-12 Aマンション603

名前 松島志保          印

上記遺言者は本職と面識がないので、法定の印鑑証明書をもって、人違いでないことを証明させた。

上記遺言者及び証人に読み聞かせたところ、各自筆記が正確なことを承諾し、以下にそれぞれ署名捺印する。

遺言者 松島志保
証人 ◯◯◯◯
証人 ◯◯◯◯

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