“大丈夫。切れてもつながるから”
高校2年生の美緒は、いじめが原因で学校に通えなくなり、ホームスパンの赤いショールにくるまっているときだけ安らぎを感じます。そんな娘に英語教師の母・真紀はきつく当たる。わかり合えぬ母娘関係の難しさが読み手に刺さります。
「親子だから遠慮がないというか、互いに心を許しているからぶつかっていくわけなんです。実はこの話を書くときに糸紡ぎの体験をしたんですが、私は何度やっても糸を切ってしまう。切るたびに“先生、切れました。何度もすみません”という感じだったんですが、先生が“大丈夫。切れてもつながるから”って言ってくださった。
そのときに、“切れてもつながる”っていい言葉だなと感じました。切れたら終わりじゃなくていくらでもつながる。でもそのためには条件があって、互いにつながろうという意思さえあれば、なんです。互いにつなげようという意思があって撚りをかければつながるけれども、一方方向だったらつながらない。
母親の真紀は賢く、正義感にあふれた人。夫も含め、男性や他人に甘えることが苦手です。人に弱みを見せず、つらいことがあってもなんとか自分の力で克服しようとしてきた人です。
彼女は強い人ですが、英国の可愛らしいものや児童文学が好きという柔らかな一面も持っていました。そこで娘の美緒に美しい本などを与えるのですが、幼い美緒はあまり興味を持ちません。夫の広志も仕事が忙しく、家庭をかえりみない。
家族といても真紀は孤独を抱えていて、それゆえにひとたび問題が起きたとき、娘や夫と激突します。切れた家族の糸はつながるのか。この作品は家族の糸を紡ぐ物語でもあります」