【財産の行き先】
一生懸命働き、築き上げた財産。もし、私が死んじゃったらどうなるの?
「故人の財産が誰の手に渡るか、基本原則は民法で決められています。受け取る人のことを“法定相続人”といいます。自分があえて指定しなければ、財産はその法定相続人の手に渡ります」
法定相続人以外に、財産を託したい相手がいたら?
「遺言書の作成です。口頭で伝えたり、エンディングノートに書いただけでは、遺言の機能は果たしません」
遺言書には、主に『自筆証書遺言書』と『公正証書遺言書』の2つがある。
「自筆証書遺言書は、自分で手書きするタイプ。でも、オススメはしません。自筆証書遺言の内容を実行する際には、必ず家庭裁判所のチェック(検認)があり、形式の不備によって無効になるケースが非常に多い。さらに“書いたときは判断力が失われていたから無効”など物言いがつくことも。また、改ざんや紛失の可能性もあります」
一方、公正証書遺言は、手続きのプロである公証人が取り仕切り、確認するため、遺言書が無効と判断されるケースは極めて低いという。
「公正証書遺言は、財産の価額によって作成手数料が異なります。例えば、財産が1000万円を超え3000万円以下の場合は2万3000円です」
詳しくは公証役場や弁護士に問い合わせよう。
Q.私の法定相続人は、誰?
A.「法定相続人は、血縁関係のみで形式的に決められています」
おひとりさまの場合、配偶者や子どもはいないので、法定相続人の第一候補は親。親が死亡している場合、祖父母が存命であれば祖父母となる。親も祖父母も死亡している場合は、きょうだい。きょうだいが死亡している場合は、甥や姪が法定相続人となる。
「相続権が発生するのはここまで。甥や姪の子どもは相続人にはなりません。どんなに親しくても、叔父(伯父)や叔母(伯母)、いとこなどは法定相続人にはなりません」
Q.法定相続人となる親族がいません……
A.「親、きょうだい、甥や姪など、法定相続人になる親族がいない場合、財産はすべて国庫に帰属。つまり国のものになると決められているんです」
死亡時に未払いの費用や借金があれば、それを精算した残りの額が国のものに。
「国庫に帰属した財産は、国が自由に利用できます。“自分の財産を国でこう活用してほしい”などの意思は残念ながら反映されません」
すなわち、公共事業や公務員の給料などに使われることに……。
Q.財産が国のものになるのは嫌なんですが?
A.自分の財産を国庫に帰属させず、仲のよかった人やお世話になった人にもらってもらいたい!
「その場合は、遺言書を作成すれば大丈夫ですよ。遺言書というと、“親族の誰に、どの割合で財産を継がせるか”を指示するイメージがあるかもしれませんが、血のつながらない他人や団体などに、財産を受け継いでもらう(=遺贈する)指示も可能です」
Q.私には借金が。法定相続人に恨まれる?
A.相続人に引き継がれるのは、プラスの財産だけではない。
「故人に借金があったり、借金の保証人になっていた場合、その借金や立場もまるごと引き継がれます。相続人は、プラスの財産もマイナスの財産もまるごと受け取るか、すべて放棄するか。二者択一です」
相続を放棄する場合は、亡くなったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所で手続きを。
「期限内に手続きをしなかった場合、相続したことになってしまいます(単純承認)。マイナス資産がある場合は、法定相続人となる人に、事前にこの制度を伝えておくといいですね」
(取材・文/鷺島鈴香)
弁護士法人ガーディアン法律事務所代表弁護士。東京弁護士会所属。おひとりさま案件はもちろん、相続対策、離婚問題、不動産問題などで活躍