1日1枚のマスク節約を迫られる毎日

 しかも、新型コロナ患者が急増するにつれ、感染防御に必要な医療資器材が不足し始めている。北日本の拠点病院に勤務する事務職員が現状を吐露する。

「感染防御用のマスク、手袋、ガウンなどは本来、感染症の可能性が高い患者に接したその都度、交換が必要なのです。しかし今後の供給見通しが立たず、節約を迫られています。例えばマスクは救急部門のスタッフで1日1人1枚、病棟担当スタッフは3日に1枚、事務職員に至っては1週間に1枚というありさまです」

 実際、日本救急医学会などは声明で、医療資器材不足とそれに伴う院内感染の発生の危険性、さらには院内感染によるスタッフの離脱の危機を訴えているほどだ。

 まさに「機関銃に竹槍で応戦」ともいえる現場の状況だが、その最前線で奮闘するスタッフにさらに理不尽な「コロナ・バッシング」が追い打ちをかけている。前述の事務職員は次のように語る。

「スタッフの中には子どもが通う保育園や配偶者の勤務先などから“新型コロナの陰性証明書を提出してください”と無理難題を突きつけられた事例もあります。この影響で3月中旬以降、うちの病院では数人が退職しました」

感染者2万人超で救える命も救えない

 新型コロナウイルス感染症は1月28日付で感染症法に基づく指定感染症となり、感染者は原則全員が入院・隔離を求められる。ところが想定以上に感染者は増加、国が定める各都道府県の感染症指定医療機関の病床(ベッド)だけでは対応不能になり、自治体ごとに新たなコロナ対応病床の整備が進められている。

 しかし、それでもなお病床不足は差し迫っている。NHKの調査によると、4月20日時点で各都道府県が用意した新型コロナ対応病床の占有率が100%を超えたのは、東京都、大阪府、それから沖縄県。このほかにも3県で病床の80%以上が埋まっている。対応病床占有率50%以上にいたっては、合計で11都道府県にのぼるのが現状だ。

 すでに厚生労働省は4月上旬に、重症者の治療に支障が出るおそれがある場合、無症状・軽症の患者について、自治体が用意する宿泊施設や自宅での療養を認めると方針転換した。

 新型コロナウイルス感染症は、約80%は無症状・軽症で、残る約20%は入院治療が必要な重症といわれている。現在、新型コロナ対応病床は全国で約1万1000床。単純計算すれば、感染者が5万5000人以上に達すれば、現在用意された病床は埋め尽くされることになる。

 単純計算とはいえ、国内での感染者5万人超は非現実的な想定ではない。通称G7と呼ばれる日本も含む先進7か国中、アメリカの感染者80万人超を筆頭に、日本より人口の少ない英仏独伊の4か国ですら感染者数が10万人以上に達しているからだ。

 一方、これまでの研究結果からは新型コロナ患者の約5%は集中治療室(ICU)での管理が必要になると報告されている。ただ、ICUは新型コロナ患者だけが入院するものではなく、日常的に交通事故や重大な事件・災害による重症者、心不全や狭心症などの心臓疾患患者や脳梗塞などの脳血管疾患患者など生死にかかわる幅広い患者に対応する病床である。

 日本集中治療医学会が4月1日に発表した理事長声明では、全国にあるICU病床の約6500床のうち、新型コロナへの対応可能な余力は1000床未満と表明している。さらには、ICU対応が必要な患者が約5%という点から考えれば、実質的に国内の感染者が2万人を超える段階で、救える命が救えない状況が起きることになる。すでに感染者1万人を超えた日本にとっては猛火が目前に迫っている状態ともいえるのだ。