音や光で肉けいれんを起こす『破傷風』
『破傷風』にも注意が必要だ。近年は30歳以上の成人を中心に発症し、年間120名ほどの患者数が確認されている。
「傷から破傷風菌が入ってきて発症します。土の中にいる破傷風菌は、芽胞を作り、いわば土の中で仮死状態で存在している。傷口から栄養豊富な人間の体内に入ることで、眠りから覚めるように活性化してしまう」(井上先生、以下同)
大きな音や光などの刺激により、激烈な肉けいれんを起こす『破傷風』。致死率は約30%といわれているが、ジフテリア・百日せき・破傷風混合ワクチン(3種混合ワクチン)の誕生以降、ワクチン接種で作られた抗体がこれら細菌の毒素を無毒化するので、患者は減った。
しかし、その効果は10年とされていて、実際、発症者の多くはワクチンの効果が切れてしまった中高年世代。予防効果を維持するためには、追加接種を行う必要があるのだ。そして、「台風や自然災害が増えるこれからの時期は要注意」だとし、
「災害が起こったときなどは、破傷風菌に汚染されているかもしれない土に触れる可能性が高くなる。ケガを防ぐためにも手袋をするように。万が一、ケガをした場合は、消毒を心がけてください。有事の際は、通常の衛生環境ではなくなるので注意が必要」
かつて、新生児破傷風は強直性けいれんなどが起こる悲惨な病気だった。十分に消毒されていないはさみでへその緒を切ることから起こっていたのだ。
井上先生が、「現在の日本は世界で最も衛生面が優れている国のひとつ」と説明するように、衛生環境の改善と感染症の関係性は深く、状況が変わった場合には、きちんと意識を改める必要があるというわけだ。
清潔な国の人が途上国へ行くと感染症のリスクは上がる。衛生環境が十分ではない外国を訪問する場合には、“国外だからこそ罹患するかもしれない感染症”の知識が必要となる。