元気で暇だと不機嫌になる
専門家によると、老人の困った言動は脳の一部である前頭葉の委縮に原因があるという。しかし、ひと昔前の老人はもっと穏やかだったような気もする。
また、パーソナリティーの問題とも片づけられない。筆者自身もボランティア活動をする中で何度か暴走老人の被害に遭った経験者なのだが、彼らには若い世代には見受けられない言動が目につくからだ。思いっきり上から目線的なキレ方をして、しかも執拗なので始末に悪い。
もちろん脳の影響は少なからずあるだろうが、それだけではない、何かしら居心地のよくない、いまどきの高齢者ならではの原因があるのではないだろうか。
1950年代の日本人の平均寿命は60代そこそこだった。企業戦士たちは現役を終えた段階で、人生もほぼ終焉に向かっていた。しかし、現在の平均寿命は女性 87歳、男性81歳になった。人生100年時代とも言われ、今後はますます長命になっていくことだろう。
言ってみれば、いまの高齢者はまだまだ元気なのに、ひと昔前と同じように60歳でお役御免となり、暇を持て余している世代だと言えるのではないか。
街中でキレる人も、企業などに対して悪質なクレーム(いわゆるカスタマーハラスメント)をする人も、家庭で威張る人も、結局、その多くは元気で暇なのだ。暇を持て余しているから、寂しさを感じたり、承認欲求が出てきたりするのではないだろうか。
定年後に、20年も30年も暇を持て余していればネガティブにもなる。あることないことを吹聴する女性たちも、やることがなくて手持ち無沙汰なのだ。これからの高齢者は退屈で不機嫌にならないために、高齢期の生き方を前もって考えておく必要があるのではないだろうか。
林 美保子(はやし・みほこ) 1955年北海道出身、青山学院大学法学部卒。会社員、編集プロダクション勤務などを経て、フリーライターに。経営者や著名人インタビュー、エンタメ系など幅広い分野の記事を担当する。2004年、より社会的な分野にシフトするために一旦仕事を整理。ボランティア活動を始め、その間、精神保健ボランティアグループ代表も務める。2012年、フリーライターに復帰。以後、経営者インタビューや、高齢者関連など社会問題をテーマにした取材活動に取り組んでいる。近著に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト・プレス)がある。