行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は「介護離婚」を決意した妻の事例を紹介します。

 

「老老介護」という言葉が世の中に溢れて久しいこのごろ。しかし、悲惨なのは老老介護だけではありません。病人が病人を介護する「病病介護」はもっと大変です。実際のところ、介護疲れがたたって途中で病気を発症するケースも多いのですが、今回の相談者・京子さんもその1人です。

 法律(民法752条)には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と書かれています。条文を知らなくても、「夫婦だから」という大義名分があるので、相手を助けなければならないし、相手が助けを求めてきても断りにくいのは実情です。もし自分が病気を発症し、これ以上、相手を助けたくない場合はどうしたらいいのでしょうか? 夫婦だから助け合わなければならないのなら、夫婦をやめればいい。今回、紹介するのは京子さんが「介護離婚」するに至った経緯です。

<登場人物(全て仮名、年齢は相談時点)>
夫:郁夫(60歳。無職)
妻:京子(59歳。パートタイマー。年収160万円)
子ども:幹也(23歳。郁夫と京子の長男。会社員。年収350万円)
夫の弟:隆夫(56歳。会社員)
夫の弟の妻:聖子(55歳。専業主婦)

脳梗塞で倒れた夫を2年間、介護してきたが…

 京子さんの夫が脳梗塞で倒れたのは2年前。脳の器質性障害のため左片麻痺の症状が残ったそう。そのため、障害等級第1級の認定を受け、労災年金と障害年金を受給しながら苦しい生活を強いられてきたようです。京子さんは2年間、夫の身の回りの世話、家事の全般、そして介護を担ってきたのですが、夫のキレやすい性格は昔から変わらず。些細なことで言い合いになるのですが、それでも喧嘩を繰り返しながら結婚生活が続いていくのだろうと思っていたそうです。しかし、事態は一変しました。

 京子さんは8月、市が行っているがん検診を受診したところ、がんではなく脳腫瘍が見つかったのです。担当医は「病気の一因は過度のストレスだろう」と診断しました。「ストレスの対象は主人以外にいません!」と京子さんは泣きそうな顔で筆者に言います。例えば、夫は京子さんの病気が発覚する直前に1人10万円の特別定額給付金を「好きに使わせろ!」と吠えたり、ワガママ放題。これらのことが積もり積もった結果だと言うのです。京子さんは「あんたのせいでしょ!」と伝えたのですが、夫は「俺は関係ない」と突っぱねるだけ。

 京子さんが筆者の事務所へ相談しに来たのは離婚を覚悟したタイミングでした。

「もちろん、私はこれまでの苦痛をお金で保証してほしいという気持ちはありますが、残りの人生は限られています」

 と、苦しい胸のうちを明かします。本来、京子さんは離婚すれば財産分与を請求することができるし、慰謝料だって払ってほしいでしょう。しかし、夫を説得するのに無駄な時間を使い、離婚が遅れ、また苦痛が膨らむようでは本末転倒です。「主人が今すぐ離婚してくれるなら、1円もいらないですよ!」京子さんはとにかく急いでいる様子でした。