孤独を克服して欲しい

「孤独な人が増えたと思います。ほかの人とうまくコミュニケーションができず、鬱々とした感情をため込んでしまっている人も多いですね」

 そう話すのは前出・石井さん。さらにコロナ禍では、思うように人とつながれず、よりいっそうの孤独を深める人も少なくないという。

矛盾しているようですが、寂しいからといって、母親や父親、恋人など誰かをレンタルするのはあくまでも一時的な孤独を癒す対症療法最終的には利用者の方が寂しさに自ら向き合い、孤独を克服して“代行サービスなんていらないよ”と言ってもらえるようになるのが切なる願いです。その前段階として私たちのサービスで前向きになってもらえたらうれしいんです」

 心の隙間を「誰か」に代わって埋めてくれる代行業者。人間関係が希薄になる現代を私たちが生き抜いていくためのセーフティーネットなのかもしれない。

『お叱り代行』記者も体験

「実際にお叱り代行を体験してください」

 突如として担当編集者から話を振られた記者。聞くと、記者が代行スタッフになってみる、というのだ。

 体験なのでリアルな依頼者ではなく、前出の石井さんを依頼者に見立てて、スタッフ研修のような形式で行った。しかし記者は、演技はズブの素人。これはなんたる無茶ぶり。はたして無事に務まるのだろうか……。

 お叱り代行の設定は、次のとおり依頼者はギャンブルにのめり込み、家族に内緒で借金を重ねた中年男性ギャンブルも借金も、妻に打ち明けたら、離婚を言い渡されかねないとはいえ誰にも相談できないので代行スタッフに妻の代わりに叱ってもらって、ギャンブルをやめるきっかけにしたい、というもの

 代行業者は叱る内容や方向性、さらにはどんなアドバイスが欲しいかを事前に依頼者からヒアリング。担当スタッフは自分なりにイメージを膨らませて、アドリブで叱る、という流れだ。

「今日はよろしくお願いいたします」と、まるで武道の試合前のように『礼』から始めるのがお叱り代行を始めるうえでのマナーであることを、石井さんが教えてくれた。

「改心させるには単に罵倒してもしかたない」と考えた記者は、切々と静かに説教するように叱ることにした。

なぜギャンブルをやめられないのか」「どう返済するのか」という質問を投げかけるも、依頼者役の石井さんの口からは曖昧な言い訳ばかり。その姿を前に自然とイライラが込み上げ、同時にS心も刺激されてくる。

 次第に悪いと思ってないよねなどときっと相手が言われたくないであろう言葉も口をついて出るから、なんとも不思議だ。最後には、「家族のことを考えて」「具体的な返済プランをもらえる?」という言葉で初の「お叱り」を締めくくった。

 初のお叱り、石井さんの記者への評価はなかなかの高評価。叱られているときは、

「あくまでも空想だが、心から家族のために自分自身を改めたい」という気持ちになったことを明かしてくれた。