再発後、標準治療+免疫療法に挑戦
一昨年末に、大腸がんの再発、卵巣と腹膜播種への転移が見つかったという横川真美さん(仮名・46歳)。
「手術でがんを全部取りました。でもショックなことに、手術の1か月後にCT検査をしたら、すでに腹膜に2個と大動脈のリンパ節にも小さな腫瘍ができていたのです。腹膜播種は再発しやすいとは聞いていたものの、まさか1か月で……。大動脈のリンパ節のがんは肺や肝臓に転移する可能性もあり、すぐ抗がん剤の治療をすすめられました」(横川さん、以下同)
その一方で、横川さんは自分でがんについて勉強。
「腹膜は臓器ではないので血液の流れが少なく、抗がん剤が回りにくいということを知って、何か追加の治療をしようと。それで免疫療法に行き着いたのです」
だが免疫療法は玉石混交。
「そんな中、NKT細胞標的治療は、基礎研究を続けて臨床試験を行っている、かつ、最先端の治療ということが選択のポイントでした」
抗がん剤治療が始まる直前に、横川さんはNKT細胞標的治療を受けることを決意し、東京シーサイドクリニックで成分採血を行う。
「抗がん剤を打つと血液細胞が弱ってしまうこともあるので、その前の血液をとったほうがいいと、迅速に対応してもらえました」
昨年4月から抗がん剤治療を、5月からNKT細胞標的治療を始めたところ、画像検査のたびに腫瘍が小さくなっていった。そして10月には腫瘍は消滅。腹膜播種を摘出する手術をする予定だったが、その必要はなくなった。
「何が効いたのかは一概に言えませんが、NKT細胞標的治療をしたことで抗がん剤がより効いて相乗効果があったのかなと。また、抗がん剤を打つと通常は白血球がガクンと下がって感染症にかかりやすくなりますが、私の場合は極端に下がりませんでした」
目に見えない小さな病変が残っている可能性があるので、しばらく抗がん剤治療は続け、日常生活を送っている。
NKT細胞標的治療によるNKT細胞の活性化は、少なくとも9か月以上保持され(マウスによる実験結果)、がん細胞を攻撃する効果が期待できる。
「効果を持続させるために状況を見ながら、数年後とか、もう1度、NKT細胞標的治療を受けることも考えています。自分の免疫でがんを潰すことが身体に負担のないいちばんいい方法ですから」
中川先生も話す。
「できれば、がんが早期のうちにNKT細胞標的治療を行ったほうが、身体への負担なく、進行を食い止めることにつながります。早期の段階で行って、抗がん剤治療を受けずに再発なく経過している患者さんもいます」
進行していても、田尾さんや横川さんのようにNKT細胞標的治療を行うことで手術を免れるケースもある。また、高齢者など体力がない人の場合は抗がん剤が逆に身体を痛めつけることになりかねないので、最初にNKT細胞標的治療で免疫力を上げてから、少量の抗がん剤を投与するという使い方もできるという。個々人の状態に応じてさまざまな活用の仕方があり、がんの治療法の幅が広がりそうだ。
(取材・文/村瀬素子)
〈PROFILE〉
中川敬一先生 ◎東京シーサイドクリニック院長。医学博士。日本循環器学会認定循環器専門医など。'85年、千葉大学医学部卒業。'08年にクリニックを開設。心臓病やがんなどの生活習慣病の早期診断と予防治療に力を入れる。