がんの早期発見は難易度が高い
「がんが通常のレントゲン検査で発見されるのは、直径1センチくらいの腫瘍になった段階。そのレベルに成長するまでの期間は2・5年から10年と計算されており、この潜伏期にがんを見つけるのは容易ではありません」
そこで医療機関では、CTを使ったがん検診が主流になりつつある。CTはコンピューターを駆使して身体の断面像が再現されるハイテク診断装置。CT検査なら、通常のレントゲン検査ではわからない極小のがんが見つかる期待が高まるが……。
「CT検査の放射線被ばく量は、通常のレントゲン検査で受ける数値を大きく上回ります。肺がん検診のCT検査でいえば、低線量方式でも胸部レントゲン検査の160倍から240倍に及ぶのです」
英国で行われた放射線検査の実態と発がんの関係を調べる調査では、日本はレントゲン検査が圧倒的に多く、すべての発がんの4・4%が放射線被ばくによると結論されたデータもあり見過ごせない。
幸運にもがんらしきものが発見できたとしても、次の落とし穴が待っている。
「がんかどうかの最終判断は病理医に委ねられます。CTやレントゲンなどの画像検査だけでがん確定とはならず、がんが疑われる部位から組織(細胞などの寄り集まり)の一部を採取し、顕微鏡で判定するステップが必要になるのです。その高度な診断を病理医が行うわけですが、経験や熟練度にもよりますし、人間が目で見て決める判定がどれくらい確かなのか疑問が残ります」
人間であれば間違うこともあるだろう。がんであることを科学的に判定する方法は、まだないということだ。
がん=死とは限らない?
がんを放置すればどんどん成長し、いずれ死に至る。そんなイメージもあるが、実際にはがんのすべてが進行して死に至るわけではない。
「例えば胃がんの場合、1個の細胞ががん化してから死に至るまでは平均25年ほどです。この25年のうち、『初期のがん』でとどまっている時期が10年から15年といちばん長く、その長い間に検診でがんと判定されたら“いつでも早期がん”になるのです。しかし最近の研究ではその後、がんの腫瘍が大きくならなかったり、逆に小さくなったりするタイプがあることがわかってきました」
乳がんの場合、北欧ノルウェーの調査では、乳がん検診の結果を追跡したところ22%の乳がんが6年間のうちに自然に消えたという。
「がんは多様な性質を有する病気で、悪性度が非常に高く何をしても助からないものから、進行が非常に遅く治療をしなくても天寿をまっとうできるものまで無数のタイプがあるのです。早期発見、即治療が必ずしも正解とは言い切れないのです」