他人事だと思わせない性教育
地元・松戸の中学、高校で校医を務める八田先生のもとには、性教育の依頼が引きも切らない。
「小学校高学年から、高校までですね。年齢や性別によってテーマは変えますが、今の時代ならではの問題点を織り込むようにしています」
その1つが、男子に向けて行う、『間違ったマスターベーション』について。
「今はネットで性的な動画を簡単に見られるから、自分で欲求を満たす男の子が増えています。でも、ペニスを床や壁にこすりつけるような、強い刺激に慣れてしまうと、女性のやわらかい腟の中では射精できなくなってしまう。腟内射精障害といって、結婚後、不妊相談に来る男性にこのケースは多いですね」
男子生徒には、「俺には関係ない」とはじめはそっぽを向かれることもあるが、八田先生はスライドで正しいやり方を説明し、ざっくばらんに話す。
「誰に迷惑をかけるわけでもないので、何度してもOK!私の尊敬する男性医師なんか、ひと晩で7回もしたそうよって。そうすると、横を向いていた子も“スゲー”とか言いながら聞いてくれます」
また、女の子に向けては、SNSによる性被害の危険性を、実話をもとに伝える。
「その女の子はね、15歳で妊娠したの。親とケンカしてプチ家出中に、SNSで知り合った男の家に行ってしまって。“何かされて、痛くて、血が出た”と。この年代だと生理不順の子も多いから、お腹が大きくなるまで気づかなかったのね。あっという間に21週と6日を過ぎて。結局、法律により中絶手術はできない時期で、出産することになったの」
衝撃を受ける生徒たちに、八田先生は真剣に訴える。
「どんなに優しくされても、何もしないから、一緒に遊ぼうって誘われても、絶対についていってはダメ!」と。
「厳しい現実を話すのは、雰囲気に流されてセックスしたり、避妊を男性まかせにした結果、傷つく女の子をたくさん診てきたからです」
中でも、増えているのがSNSで出会い、安易に付き合い始めた相手から暴力・暴言で支配される、『デートDV』。
「暴力的なセックスをされ、緊急避妊ピルを処方してと駆け込んできた女の子もいます。カレに殴られ、身体中にあざがある子。自分以外の人とのLINEや行動を制限して異常に束縛をするカレが、彼女を追いかけて診察室まで乗り込んできたこともありました」
そんなとき、八田先生は矢面に立って患者を守る。
「身の危険を感じたら警察を呼ぶし、“早く、ここから帰りなさい”と裏口から患者さんを逃がしたこともあります。日常的にDVを受けている女性は、シェルターに保護の要請もします」
DV男に引っかかってしまう女の子に共通するのは、「自尊心の低さ」だという。
「親にも先生にも褒められたことがなくて、自分に自信がない。だから、優しくしてくれる相手が自分を救ってくれると信じちゃう。LINEに返信しなかったり、異性と話をしただけでキレちゃう。そんな支配的な相手の態度を、『愛情』と勘違いしちゃう、生徒さんにははっきり言います。それは愛じゃなく、DVだよ!って」
そして、必ず伝えるという。
「あなたは大切な存在なの。自分を大切にして!」と。
それは、生徒だけでなく、クリニックを訪れた女の子たちにも伝えることだ。
「パパ活をして妊娠してしまったとか、SNSでつながった相手から性感染症をうつされたとか、親が知ったら頭を抱えそうな子も来ます。でも、彼女たち、話してみると決して不まじめだったり、悪い子じゃないんです。
“ちゃんとここに来て、偉かったよ”ってまず褒めてあげるんです。彼女たちの話すことを肯定しながらじっと聴いてあげると、素直に心を開いてくれるし、悩みを打ち明けてくれる。性教育も大事だけど、親にも先生にも言えないことを話せる存在でいることも、私の大切な役目だと思っています」