陳情の具体的な出し方まで教えてもらった井田さんたちは、それを実践していった。中野区議会の議員ひとりひとりに会いに行ったのだ。

「熱心に話を聞いてくれることに感動しました」

 同年12月、井田さんたちの出した陳情は中野区議会で賛成多数で可決された。国会へ選択的夫婦別姓を求める意見書が送られることが決まったのだ。

 井田さんたちは「陳情を通じて地元の地方議会から国会へ意見書を送る」という方法を身をもって体験した。そこから、「このノウハウを共有すれば、法改正を望むほかの人たちも同じ動きができるのではないか」と思い、陳情アクションを立ち上げ、同時にサイトも開設した。

 井田さんのツイッターには選択的夫婦別姓に賛同する意見も多く届くが、反対する声もある。露骨な人格批判や罵詈雑言を浴びせるようなケースを除いて、彼女は投げかけられたツイートのほとんどすべてに返信をしている。

院内集会でスピーチする井田さん。選択的夫婦別姓を求める声は広がりつつある
院内集会でスピーチする井田さん。選択的夫婦別姓を求める声は広がりつつある
【写真】嫁入り後、義父に強制的に作らされた“家紋入りの喪服”を着る井田さん

「反対派のご意見は大変ありがたいんです。選択的夫婦別姓に懐疑的な議員にお会いするためには、反対を唱える人たちが何に反対しているのか、調べて資料をきっちり作らないといけない。これは営業などでも同じこと。相手は何かしらの不安をお持ちですよね。その不安に応えるために、こういう資料をお持ちしましたと。そう言えるかどうかで心証がだいぶ違うんです。

 反対派の方への返信は、法改正に関して懸念を持たれる人に対して議論するための訓練、“壁打ちテニス”みたいなものなんです(笑)

 現在、全国各地の地方議会で可決された「選択的夫婦別姓」を求める意見書は214件。そのうち73件は井田さんたち陳情アクションのメンバーが陳情を行ったものだ。

「だから地道にやっていこうと思っています。地方議会に声を伝えていくし、旧姓使用に限界を感じたり、トラブルに巻き込まれたりした人の資料を作って各政党に働きかけていく。市民や政治家向けの勉強会も開催しています」

「子どもがかわいそう」だから反対?

 選択的夫婦別姓を求める世論が盛り上がりを見せる一方、「家族の絆が薄まる」「社会が壊れる」「犯罪が増える」「子どもがかわいそう」などと反対する人たちが根強くいる。一部の国会議員をはじめ保守系の政治家たちだ。

 今年1月30日、自民党の国会議員50名が、「選択的夫婦別姓制度への反対」を呼びかける書状を地方議員に送っていたことが明らかに。そこには、男女共同参画担当相に就任した丸川珠代議員の名前もあったことが発覚した。

「議会で選択的夫婦別姓制度の実現を求める意見書が採択されないよう“お願い”する」という内容の手紙が送付されてきたとして、埼玉県議会の田村琢実議長(当時・現幹事長)が公表したのだ。

 報道によると、47都道府県議会議長のうち、自民党に所属する約40人に同様の「手紙」が送付されたと伝えている。田村県議は、次のように語ってくれた。

「選択的夫婦別姓は今すぐにでも制定すべき問題です。しかし、一部の政治家が当事者のことを理解せずに、自分の意見を主張するために頓挫している。公の政党はほとんど賛成です。だから、これは自民党だけの問題なんですね。私も一政治家として、こんなことはすぐ解決しなきゃいけないのに、一生懸命にならざるをえない井田さんの立場をつくってしまったことに申し訳ないと思っています」