離婚するときまで「財産の不開示」を貫く
今まで清く正しく生きてきたと言う香澄さん。当初は「やられたらやり返すというのはちょっと」と尻込みしていましたが、筆者は「背に腹はかえられませんよ」と背中を押しました。そして香澄さんは夫に対して、こう言い返したのです。
「貯金していたのはあなたのためじゃない。私のためよ」と前置きした上で「偉そうなことを言うのは、私と同じくらい貯めてからにしてちょうだい! あなたは将来のことも考えず、贅沢三昧。子どものいない私たちは老後の十分な資産が必要なのに、何なの!? だったら、私もお金を使いまくればよかったわ」と。
アルコールが入ると気が大きくなる未熟さ、いい歳をして貯金がない恥ずかしさ、そして先々のことを考えて行動しない稚拙さ──夫の弱みを徹底的に突くことで不当な請求をやめさせようと試みたのです。
そして3つ目ですが「財産の不開示」です。香澄さん夫婦のように共働きの場合、独立採算制を採用しているケースは多いです。生活費以外は何にいくら使おうが自由。筆者は「どのくらい稼いでいるのかさえ把握していない夫婦もいますよ」と紹介しましたが、いわゆる秘密主義です。
結婚生活が続く限り、「金銭感覚の違い」に気づかなくても差し支えありませんが、いざ離婚する場合はどうでしょうか? 相手がいくら稼ぎ、いくら使い、いくら残っているのか……金銭感覚によって財産分与額が変わるのだから一大事です。それなら、いっそのこと離婚する場合も秘密主義を続けたほうが穏便におさまります。そこで香澄さんは「お互いお金に口を出さない」が結婚生活のルールだったことを夫に思い出させた上で、「今まで干渉してこなかったのに今回だけ口出しするなんて何様なの?」と叱責したのです。
さらに香澄さんは夫に「もう離婚することは決まっているでしょ? これ以上、お金のことで傷つけあいたくはないの! 詮索しないのが賢明だって分からない!?」と追撃したのです。これに対して、夫は「好きにしろ!」と逆ギレ。香澄さんの理論武装に嫌気がさしたのか、打たれ弱い夫が「これ以上、傷つけられるのはまっぴらだ」と怖気づいたのか、はたまた赤の他人になり、二度と顔を合わせることもないだろう相手(香澄さん)とこれ以上、話を続けることが馬鹿馬鹿しくなったのか……今となっては定かではありません。最終的に香澄さん夫婦は「お金の取り決め」をせず、金銭授受は発生せず、傍から見れば円満に離婚することができたのです。
共働きの増加で「妻が夫に払うケース」も
最後に23年前の統計をご覧ください。夫婦が離婚する場合、慰謝料や財産分与などお金の条件を取り決めたのは全体の48%。そして夫が妻へ支払ったのは全体の91%ですが、逆に妻が夫へ支払ったのはわずか9%に過ぎません。さらに以下の数字は支払額の結婚期間別の平均値です。(平成10年の司法統計年報。『離婚・離縁事件実務マニュアル』ぎょうせい刊・東京弁護士会法友全期会家族法研究会/編から引用)
●1年未満:140万円
●1~5年:199万円
●5~10年:304万円
●10~15年:438万円
●15~20年:534万円
●20年以上:699万円
全く同じ統計は直近の統計には存在しないので比較しようがありませんが、昨今のジェンダーレス化による共働き夫婦の増加、夫の家事参加の増加、そして妻の収入、財産の増加により、「妻が夫に払うケース」は増えているでしょう。
離婚する場合は「夫が妻に払うもの」というひと昔前の先入観を疑い、万が一、請求された場合にどうするのかを考えておいたほうがいいでしょう。
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/