実は、不倫への怒りから復讐願望を満たそうとするのはかなり強い方で、喪失感にさいなまれ、どうすればいいのか見当もつかず、おろおろしている方のほうがむしろ多数派のような印象を受けます。
離婚をめぐる話し合いが自分に有利に進むようにするため、あるいは不倫相手に慰謝料や損害賠償を請求するため弁護士に相談するのは、かなりハードルが高いようです。そんなことは思いもよらないし、そのためのお金もないという方が実際には多いのではないでしょうか。
第一、打ちのめされていて、それだけのエネルギーがないのでしょう。もっとも、精神科医のもとを訪れる患者には、強い喪失感からうつになった方が圧倒的に多いという特有の事情があるため、そのような印象を私が受けるのかもしれません。
「夫の不倫は妻が至らないせい」と責められ
世間では、不倫はやってはいけない“悪”とされています。ですから、罪悪感を覚えるのは不倫した側のはずというのが通常の感覚でしょう。それに対して、不倫された側は、傷つき、多かれ少なかれ損害を被ったのですから、通常の感覚からすれば被害者とみなされてしかるべきです。
ところが、なかには不倫した側が「自分は悪い」とは思っておらず、逆に不倫された側が罪悪感を覚える夫婦もいるようです。
たとえば、夫の不倫を知ってうつになった30代の女性は次のように訴えました。
「夫は私のせいだと言うんです。私も、そうかもしれないと思うんですよね。夫はいつも食事などに文句ばかり言っていました。私が仕事と育児で疲れていて、家事が手抜きになっていたのはたしかなんですよね。それに下の子が生まれてから、セックスレスだったし。やっぱり、子ども優先で、どうしても夫の世話は後回しになってしまったのが悪かったのかなと思うんですよね。
夫はサインを出していたのに、私が気づかなかったのも悪かったかもしれません。姑からも『夫を大切にしないから、浮気されるのよ』と言われて……。やはり私の努力が足りなかったのでしょうか」
この女性が罪悪感を覚える理由はみじんもないはずです。悪いのは、共働きなのに家事も育児も手伝わず、文句ばかり言い、あげくの果てに不倫した夫のほうだと私は思います。
にもかかわらず、被害者のはずの妻が罪悪感にさいなまれるのは、夫と姑から「夫の不倫は妻が至らないせい」みたいに言われ、責められたからでしょう。このように、自分が不倫したくせに、配偶者を責めるのは、「自分は悪くない」と自己正当化することによって、自分が責められないようにするためです。また、たとえ離婚という事態になっても、慰謝料や養育費をなるべく払いたくないので、自分の責任をできるだけ認めないほうがいいという思惑もあるのかもしれません。