10歳で発症・木下亜由美さん(仮名・20代)
飲み会やオールが回復を後押し
「発症にはもともとの性格も大きく影響していると思います。何事も思いつめてしまい相手の言葉を真に受けてしまう。まじめな子どもでした」
そう話すのは木下亜由美さん(仮名・20代)。摂食障害の発症のきっかけは周囲からの何げないひと言だった。
「小学5年生のとき友人から“太ってる”とか親からも“よく食べる”と言われました」
ショックを受けた木下さん。“太っていることはよくない。やせなければ”と思い、ダイエットを始めたという。
まず食事を減らし、カロリーコントロールを始めた。
おにぎり1個、パン1個の食事。小学校は弁当。いつもコンビニで購入していた。中学受験を控えていた木下さんは夕飯もコンビニですませることが多く、親も食べていないことに気づいていなかった。
「食事制限だけでなく激しい運動もしていました。おなかいっぱいにならないほうが勉強もはかどりました」
健康の問題もなく、どんどん深みにはまっていった。
ダイエットを始める前の身長は148センチで50キロほどだったが2年後の中学入学直後にはその半分近くまで落ちていた。だが、ダイエットをやめることができなかった。
「体重が減ることに満足していて自分が間違っているとは思わなかったですね。体重が増えるのが怖かった」
心配した友達の「やせすぎじゃない」「それしか食べないの? 」との声も届かなかった。
中学1年の冬、親に強制的に入院させられ治療したことで食事ができるようになった。
「親は私を太らせたいのだと思い込み、親の作るご飯が食べられませんでした」
頭の中はいつも食べ物と体重のことばかり。木下さんを変えたのは大学で出会った同級生たちだった。
「飲みすぎてつぶれる友達がいたり、オールをしたり、大学生らしい生活をしていたんです。そのときにこだわりがほどけて、みんなと食事ができるようになった」
それまでは食事の時間もきっちり決めて、暮らしに厳しいルールを設けていた。
「いろいろな生き方があることを知りました。やせていても太っていてもいい、勉強ができてもできなくてもいい」
今は別の大学に入り直し、医学部の6年生だ。
実習先で中高年の当事者と出会うこともあるという。
「大人の摂食障害も増えています。体形のことで間違った指摘をすると逆効果になる人もいます。摂食障害は死亡率も高い怖い病気です。学校や社会がもっとこの病気のことを正しく知ることは大切だと思います。やせていることがいいことだ、というような社会の風潮を変えていかなければと思います」
頑張りすぎなくてもいい。木下さんはそう願う。